ヒューマンライツ情報ブログ「Mの部屋」15 突きつけられる「わたしの特権」① 「ランドセルの色やデザインで悩む時間は私たちにはなかった」

 仕事を通して、たくさんの人と出会わせていただき、たくさんの刺激・指摘をいただいています。私にはないマイノリティ性を有する側の人たちとの関わりの中で、自分のあり方や立ち位置を問われることは本当にたくさんあります。自分に植え付けられた差別性や偏見、あるいは特権に最前線で気づかせてもらえるのが今の仕事です。シリーズとして紹介していきたいと思います。

 今から数年前、子どもが何らかの障害のある親の会の方々とお出会いし、その後、研修でお互いの地域を行き来したり、交流する機会が増え、相談し合える関係性ができた保護者さんたちがいます。何か相談を受ければ、他の用事をおいても乗りたいと思える人たちです。

 学校での研修を終えた後、当時の同僚と保護者さん二人をランチに誘いました。研修の内容が「マジョリティの特権」で同僚と二人で掛け合いのように研修を進めた後の感想交流のような話になりました。

 その時、一人の保護者さんが、ポツリと「私、ランドセルの色で悩みたかったなあ」とつぶやいたと思うと涙を流し始めました。私はまだピンとこなくて、「詳しく教えて」と言うと、

 「子どもが自閉症で、就学前の時から、学校選択や学級選択に悩んできた。どの学校がいいのか、どの学級に在籍させればいいのか。友だちと同じ思い出を共有して欲しいけど、他の子の勉強の邪魔になったり、トラブルになったりするのは嫌だし。そんな答えが出ないことに悩まされ続け、締め切りいっぱいまで悩みに悩んで答えを出した時には、子どもと一緒にランドセルの色やデザインで楽しく悩む時間なんて、私たち家族にはなかったと思って」

と話をしてくれました。

 この瞬間、鈍器で頭を殴られたような気持ちになりました。特権の話をする側の私が、このようなマイノリティに及ぶ不利を十分に理解していなかったこと、こうした視点で障害児の保護者さんを捉えられていなかったこと、そして何よりも自分は、自分の子ども期や我が子のことに関して、「ランドセルの色やデザインで楽しく悩める時間が保障されている」ことに気付かされました。そして、学校選択や学級選択に悩まなくていいという特権も有していることに気づいていなかったことが恥ずかしく思いました。

 これも数年前です。ある中学校に講演に招かれ、「マジョリティの特権」の話をさせてもらった後、寄ってきてくれた中学生から学んだ、突きつけられた話です。子どもたちに特権の話をする時は、ジェンダーなどの話から入ることが割と多くあります。そんな話を聞いてくれた子が、今日の内容はとても良かったと評価してくれた上で、質問を投げかけてきました。

「サンタクロースがこの世にいないと思ったのはいつごろで、何がきっかけでしたか」

 突然の質問で、しかも人生初だったので、しばらく思い出すのに時間を要しましたが結局は覚えていませんでした。この子にそう言うと、「自分は4歳の時のクリスマスで確信しました」と言いました。

 この子はトランジェンダーで、生まれた時から「男の子」として育てられた子です。4歳を過ぎた頃、どうも自分の性に違和感を持ち始めたようで、テレビを中心とするメディアでは、性的マイノリティのことを取り上げていたこともあり、それなりの情報を得ていたこの子は5歳で、自分は「女の子」と自認するようになったと言います。

 その5歳で迎えるクリスマスの1ヶ月近く前に、パパとママが「今年はサンタさんにどんなオモチャをお願いする?」と聞かれたこの子は、「仮面ライダーの剣」と答えました。しかし、これはパパやママが変に思ったり、嫌な気持ちになったり、驚いたりすることは嫌だと思ったので、咄嗟に出た「ウソ」であり、本当に欲しいオモチャは「リカちゃんハウス」でした。当時は、サンタクロースがこの世にいると強く信じていたので、この子は「サンタさんならわかってくれる」と思い、心の中で何度もサンタさんに「リカちゃんハウス」をお願いし続けました。

 12月25日の朝、目が覚めると、パパとママがすでにデジタルビデオを回していました。起きたこの子に「サンタさんからプレゼントが届いてるよ」と言われ、頭の上を見ると包装紙に包まれたプレゼントがありました。早速、開けてみようと包装紙を破りながら、パパやママの気持ちを想像していたと言います。「驚くかな、どう思うか、なんていうかな」という気持ちだったそうです。破った包装紙の中にあったプレゼントは「仮面ライダーの剣」でした。この子は、「この日にサンタクロースがいないことを確信した」と教えてくれました。この日以降も、男の子でいることの苦痛があったことなど、自分とたくさん会話してきたとすぐにわかる詳細なストーリーを教えてくれました。このことも気づきませんでした。

 マジョリティの特権について詳細にまとめられた本です。紹介します。


 ご覧いただき、ありがとうございました。

2件のコメント

  1. 本当に子どもたちとの毎日の中に、ふとした言葉で自分のことを考えさせられること沢山あります。

    1. 私も日々、同じ状況です。身のまわりで起きていることに丁寧に向き合いたいと思います。ありがとうございます!

返信を残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA