ヒューマンライツ情報ブログ「Mの部屋」71 初の障害者権利委員会から日本政府への勧告〜日本は何を問われたのか〜

 2022年9月9日、国際連合(以下「国連」という。)の障害者権利条約「以下(本条約)という。」の国連障害者権利委員会「以下「権利委員会」という。」は、日本政府による条約に基づいたこれまでの取組について審査が行われ、総括所見と改善勧告等を出しました。

 本条約は、2006年に国連より発行され、「障害のある人たちが差別を受けず、住みたい場所で住めること、働きたい場所で働けること、受けたい教育を受けられることといった権利を保障すること」を目的に、「私たちのことをわたしたちぬきに決めるな」をキーワードに、世界中で条約に基づいた取組が広がっています。日本は、2014年に本条約に批准したため、条約を国内法として、「障害」者への差別解消のための施策を展開してきています。2016年4月には、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」を施行したことも、本条約に批准したことによるものでもあります。本条約には185の国と地域が加盟しています。

 流れとしては、審査を受ける側の日本政府は権利委員会に対し、条約に批准して以降の条約に基づいた国による取り組み、国内の「障害」者を取り巻く現状と課題などについてまとめた報告書を提出します。政府による報告だけでは、政府にとって不都合な内容が報告書に記載されないこと、現状と課題の捉えや認識が不十分であること等があるため、今回の権利委員会による審査に限らず、国連の各条約の委員会による審査の際には、政府以外に国際NGOや当事者団体などが「パラレルレポート」を作成し、NGOや当事者視点で政府の取り組みの評価、「障害」者を取り巻く現状と課題などをまとめ提出します。提出された政府報告書とNGO等のパラレルレポートは、権利委員会の専門性を有する委員が内容を確認し、条約に基づいた施策を政府が実施してきたか、政府と国際NGOや当事者団体による日本国内の課題や改善点等について違い等についても精査されます。

 権利委員会の閉会の際、権利委員会のキム・ミヨン副議長は挨拶のなかで「政府の報告書とパラレルレポートが示す現状や課題などには、大きなギャップがある」と指摘されたと報じられていました。

主な改善勧告

 すべてを紹介することはできないので、ポイントを紹介すると、権利委員会が特に重視した改善勧告は、本条約の第19条には「自立した生活および地域生活への包容」で、

「締約国は、全ての障害者が他の者と平等の選択の機会をもって地域社会で生活する平等の権利を有することを認めるものとし、障害者が、この権利を完全に享受し、並びに地域社会に完全に包容され、及び参加することを容易にするための効果的かつ適当な措置をとる。この措置には、次のことを確保することによるものを含む。」とし、

1.障害者が、他の者との平等を基礎として、居住地を選択し、及びどこで誰と生活するかを選択する機会を有すること並びに特定の生活施設で生活する義務を負わないこと。地域社会における生活及び地域社会への包容を支援し、並びに地域社会からの孤立及び隔離を防止すること。

2.地域社会における生活及び地域社会への包容を支援し、並びに地域社会からの孤立及び隔離を防止するために必要な在宅サービス、居住サービスその他の地域社会支援サービス(個別の支援を含む。)を障害者が利用する機会を有すること。

3.一般住民向けの地域社会サービス及び施設が、障害者にとって他の者との平等を基礎として利用可能であり、かつ、障害者のニーズに対応していること。

が明文化されています。

 権利委員会は、これが守られていないと判断し、「障害児を含む障害者が施設を出て地域で暮らす権利が保障されていない」ことから、脱施設化を唱えた上で、「グループホームを含む特定の生活形態に住むことを義務付けられないように」と念を押すまでに至りました。

 また、精神科病院においても、精神障害者の強制入院や長期にわたる入院は「障害に基づく差別」と断定し、当事者の自由や権利を侵害している国内法等の廃止が求められました。日本政府は権利委員会からの質問に対する回答として、「日本の施設は高い塀や鉄の扉で囲まれておらず、桜を施設の外や中で楽しむ人もいる」としました。権利条約にある「障害によって差別を受けず、住みたい場所で住むことができる、生活できる」の趣旨と極めてかけ離れた現状に対する政府の捉え方は、深刻なズレを生じさせていることを露呈したと思います。こうした政府の状況は今にはじまったことではありません。

 国は、施設で暮らす障害者の地域移行を進めてきましたが、その取組は年々後退している入所者数となっていること、精神科病院の入院患者数はOECDのなかでも突出して多く、平均入院日数が277日、2年前で約29万人とされています。

 「不当に長い入院は明らかな人権侵害であり、医療従事者だけでなく、独立機関による入院の必要性や妥当性などを点検できる体制が必要であること、強制医療ではなく地域におけるケアサポートが必要である」という旨を、権利委員会のヨナス・ラスカス副委員長は指摘したと報じられています。

 もう一つの重要ポイントは、本条約の第24条の「教育」です。私自身、特に関心の高いのが「教育」で、三重県内で特別支援学校が新設されたり、伊賀市では全国的にもトップクラスで特別支援学級生が多いという、権利条約締結後も、条約の内容に反する状況が続いてきていることが理由の一つです。

 「締約国は、教育についての障害者の権利を認める。「締約国は、この権利を差別なしに、かつ、機会の均等を基礎として実現するため、障害者を包容するあらゆる段階の教育制度及び生涯学習を確保する。」とされ、障害の有無に関わらず、いわゆる「通常学級」で学ぶことができない状態に置かれた子どもたちがいることを問題視し、特別支援学校や教育などの教育施策を解消するために、障害の有無に関わらずともに学ぶ「インクルーシブ教育」の実現に向けた国内行動計画の策定が求められました。

1.分離された特別教育をやめるために、教育に関する国の政策、法律、行政上の取り決めの中で、インクルーシブ教育を受ける障害のある子どもの権利を位置づけ、すべての障害のある幼児児童生徒が、すべての教育段階において合理的配慮と必要な個別的な支援を受けられることを保障するために、質の高いインクルーシブ教育に関する具体的な目標、スケジュール、十分な予算を含めた国家行動計画を採用すること。

2.障害のあるすべての子どもたちの通常の学校へのアクセスを確保し、通常の学校が障害のある幼児児童生徒の通常の学校への在籍を拒否することを許さないための「非拒絶」条項と政策を導入し、特別支援学級に関する通知を撤回すること。

3.障害のあるすべての子どもたちが、個々の教育的ニーズを満たし、かつインクルーシブ教育を確実に受けられるための合理的配慮を保障すること。

4.インクルーシブ教育について、通常教育の教員および教員以外の教育関係者の研修を確保し、障害の人権モデルについての認識を高めること。

5.点字、イージーリード、ろう児の手話教育、インクルーシブ教育環境におけるろう文化の促進、盲ろう児のインクルーシブ教育へのアクセスなど、通常の教育環境における拡張・代替コミュニケーション様式および方法の使用を保障すること。

6.大学入試や学習過程などを含む、高等教育における障害のある学生の障壁に対処する、国家的な包括的政策を策定すること。

 報道にありましたが、永岡佳子文部科学大臣は「多様な学ぶの場で行われている特別支援教育の中止は考えておらず、勧告の趣旨を踏まえ引き続きインクルーシブ教育システムの推進に努めたい」と述べました。政府の姿勢として、加藤勝信厚生労働大臣も「条約に法的拘束力はない」という状況にあるから、条約の曲解、委員会勧告の軽視が浮き彫りになりました。何よりも当事者が置かれている差別や権利侵害などを容認する姿勢に、多くの批判があがるのは当然のことです。

 日本において特別支援教育を受ける側にある子どもたちの人数は2021年度で約57万人とされ、10年前よりも約2倍になっています。文部科学省は、「学校や学級の選択は保護者の意向を最大限尊重する」としていますが、就学前の段階において「知的面や発達面の障害の早期発見」などが行われ、地域の学校や通常学級では必要な教員数や専門職員の配置が行われず、施設のバリア、医療的ケアを要する子どもたちに必要な機器等が用意されていないため、結果として特別支援学校や特別支援学校を選択せざるを得ないという状態に置かれつづけています。

 インクルーシブ教育とは、障害の有無に関わらず、すべての子どもたちが、それぞれの個性や特性に合わせた必要な支援を受けることができ、ともに交わり関わり合いながら、ともに学ぶことをさします。地元の三重県では、特別支援学校を新設したり、特別支援学校に通う生徒が増えており、伊賀市においては全国トップクラスで特別支援学級生が多い状況となっています。マジョリティが権力を持って、マイノリティの権利や自由を奪う、排除する、分断するなど加害性を有する問題だと思っています。

 マジョリティが行動を起こさなければなりません。何もしないことによって、現状を容認し、加担してきた結果でもあります。「障害」当事者だけに声をあげさせるのではなく、マジョリティがマジョリティの責任で、あるべき社会の実現に取り組む必要があります。あるべき社会とは、障害の有無により分け隔てられることのない社会です。

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