ヒューマンライツ情報ブログ「Mの部屋」72 先生や行政職員さん、「差別とは何か」についてきちんと教えてくれていますか?

差別とは何か

 マジョリティ(社会的多数派・権力を持つ側)にとって「差別」とは、マイノリティ(社会的少数派)性を有する人に対する差別発言や差別落書き、インターネット上の差別投稿、就職差別や結婚差別、土地差別などについて、差別意識や偏見をもった一部の人がする問題と非常に狭義に捉えられていることがあります。学校の先生や保育士さん、行政職員などの教育や啓発を実践する側の人が、このような理解であることは少なくありません。このような狭義な捉え方に基づく児童生徒や保護者、市民への教育や啓発などが展開された結果、「自分はそんな差別をしていないからいい」となりがちです。「何が差別なのかも理解できているので、差別意識や偏見をもった一部の人に対して取り組むべきであり、私たちは学ぶ必要がない」となっていることを幾度も見てきました。

 また、このような捉え方の中からは、差別は「知識」から芽生えてしまうという捉えや認識を生み出してしまい、「差別のことを知らなければ差別をすることはない」という捉えにつながってしまうことがあるので、「教育や啓発などで差別問題を取り上げなければ、意識する人が出てくることがなく、差別問題を知らない人たちが増えるこため、差別は自然消滅していく」とたどり着いてしまうのではないかと思っています。このような極めて「狭義」な捉え方が長年に渡り、さまざまな場において連鎖してきていると思っています。

 学校教育、社会教育、啓発等のアップデートが急務です。

おさらい

 「差別」とは、マイノリティ性を有する人が、マイノリティ性を理由に日常生活のさまざまな場面を始め、制度・慣習・観念・構造等の問題によって、権利を侵害されるという社会問題です。

 マイノリティ性とは何かというと、日本が1995年に締結し国内法として運用されている「人種差別撤廃条約」では、

人種、皮膚の色、世系又は民族的若しくは種族的出身

とされています。

障害者基本法では、「障害」者を、

身体障害、知的障害又は精神障害があるため、継続的に日常 生活又は社会生活に相当な制限を受ける者

と定義しています。

 三重県が2022年5月19日に施行した「差別を解消し、人権が尊重される三重をつくる条例」では、

人種等の属性 人種、皮膚の色、国籍、民族、言語、宗教、政治的意見その他の意見、年齢、性別、性的指向、性自認、障がい、感染症等の疾病、職業、社会的身分、被差別部落の出身であることその他の属性をいう

とされています。

 次に、差別は、多くの場合、差別の意図がない、マイノリティを傷つけようという考えがない、無意識で行われている側面を有し、多くのマジョリティによって差別を生み出し、維持する制度や慣習、構造が支えられている社会問題であると受け止めています。

  だから、「子どもが結婚したいという相手がどんなマイノリティ性を持っていも反対(差別)しない」とか、「相手がどんな人でも気にしないし、関係ない」イコール自分は差別しない・していないとなりがちですが、それは非常に狭い領域での話であって、マイノリティが被っている日常的な差別は、そういうものだけではないということです。

 日常のふとした場面で、疎外感を抱かされるような言動を浴びる、自分が有する属性が否定されたり、侮辱されているような思いを抱かされるような問題は、たいていマジョリティは差別していることに気づいていないし、差別が起きていることに気づいていないし、それが差別だと認識できていない場合があります。アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)は、大多数の人が社会的にもたされており、能動的に学ばないと自分のうちに偏見があることすら理解されず、無意識の偏見を他者にもたせるような言動を行い、マイノリティの権利を侵害し続けるような状況となっています。いくつか例を挙げてみます。

「 制度的差別」の一例

・(自力通勤が可能な人、「見える」ことを前提とした就業内容等により結果として)「障害」者を排除する採用条件や労働条件

・同性愛者を排除する婚姻・扶養制度

・配偶者控除・相続税の税額軽減・配偶者ビザからの排除

・法的な結婚ができないと子の親権者になれない

・日本国籍者に限定された就労・採用条件 等

「事物」としての差別の一例

・車椅子では利用できない駅や施設

・座位では利用できない環境や機器

・宿泊施設のトイレやバスユニット等のバリアフリー化

・男子・女子の2種類しかないトイレや更衣室、制服 等

「観念や慣習による差別」の一例

・通訳者のいない窓口等、あるいは通訳者派遣等のない自治体の体制

・字幕や手話のない映像情報

・マイノリティ属性を理由とする入居や利用拒否

・日本語のみで提供される教科書や資料

・出生届の「嫡出子」か否かのチェック欄 等

「構造的差別」の一例

・差別被害の予防や差別被害への不安等から出自やルーツ、本名を隠したり誤魔化す

・バイアスで見られたり判断されたりマイクロアグレッションを受けたりする

・結婚や交際時に差別を受ける

・差別目的の身元調査を受ける

・差別的言動やインターネット上の差別投稿、ヘイトスピーチ被害を受ける 等

法律や条例による差別の定義

 前述した内容だけでなく、2016年4月に施行された「障害者差別解消法」や2022年5月19日に施行された「差別を解消し、人権が尊重される三重をつくる条例」では、差別とは何かが定義されています。

障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律

(定義)

第二条 社会的障壁 障害がある者にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいう。

(行政機関等における障害を理由とする差別の禁止)

第七条 行政機関等は、その事務又は事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない。

2 行政機関等は、その事務又は事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない。

(事業者における障害を理由とする差別の禁止)

第八条 事業者は、その事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない。

2 事業者は、その事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をするように努めなければならない。

「差別を解消し、人権が尊重される三重をつくる条例」

(定義)

第二条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。

一 人種等の属性 人種、皮膚の色、国籍、民族、言語、宗教、政治的意見その他の意見、年齢、性別、性的指向、性自認、障がい、感染症等の疾病、職業、社会的身分、被差別部落の出身であることその他の属性をいう。

二 不当な差別 人種等の属性を理由とする不当な区別、排除又は制限であって、あらゆる分野において、権利利益を認識し、享有し、又は行使することを妨げ、又は害する目的又は効果を有するものをいう。

 日本が批准・締結した女子差別撤廃条約、人種差別撤廃条約、障害者権利条約などを参考に、「不当な差別」について定義しています。「不当な差別」には、人権に関する法律や他県等の条例で一般的に用いられている「不当な差別的取扱い」及び「不当な差別的言動」が含まれます。具体的には、㈰正当な理由なく、特定の人種等の属性を理由として、財・サービスや各種機会の提供を拒否したり、提供に当たって場所・時間帯などを制限したり、当該人種等の属性を持たない者に対しては付さない条件を付けたりすることや、㈪特定の人種等の属性を持つ者に対して、人種等の属性を理由として、その生命などに危害を加える旨を告知したり、著しく侮蔑したり、地域社会から排除することを煽動したりすることなどが想定されます。

 また、「不当な差別」には、単一の属性を理由とするものだけでなく、複数の属性を理由とするもの(障がいのある女性や外国籍の女性に対する差別など、いわゆる「複合差別」)も当然含まれます。そのような複合差別を受けている者は相対的に困難の度合いが大きいと考えられるため、相談対応等において一層の配慮が必要と考えられます。「権利利益」の「利益」とは、一定の場合の名誉感情や平穏に生活する利益などの法律上保護される利益を指しています。

差別問題に無関係ではないという認識と、なくす行動を

 このように、「意識の問題」ではなく、制度や慣習・観念、構造の問題であることが法令で定義されていることから、今後、子どもたちをはじめ、保護者や市民等に向けて展開されるべき人権教育、特に「差別とは何か」について、意識や偏見の問題ではないということを広く深く認識することができ、かつそうした差別と自分との関連性について見出すこともでき、問題の解決に向けて自分は何を考えればよいか、どんな行動や活動を展開していけるかを導き出す実践が展開されていく必要があります。

 意識の問題として啓発や教育などで用いられてしまうことで差別制度、差別慣習、差別構造を改善する・変革するための施策が講じられず、差別が維持され、マイノリティが差別被害に遭い続けるような状況を招いています。早急に改善・変革すべき課題です。

 ご覧いただき、ありがとうございました。

 下記のご支援をいただければ幸いです。

3件のコメント

  1. お疲れ様です。うちの市の行政職員は、差別問題を軽視し、しょせん他人事と思ってます。
    それも幹部クラス。
    しっかり学んで、常にアップデートが必要ですもんね。
    それを昔に少しかじった程度の話を軽々しくしてきたり、ネットで載ってる事例を話しだす人もいます。
    本当に早急に改善し、市行政はしっかり取り組んでほしいので、これからも前向いて突き進んで行こう思います^ – ^

    1. いつもありがとうございます。
      各職場の管理職さんたちが、正確に人権問題や差別問題を捉え、自身も無関係ではないという認識を持たないと市民どころか部下に対しても、何も伝えられなくなりますし、それが差別の解消を遅らせてしまうことになると思います。
      また何かあればおっしゃってください!!

  2. ある公立の教育大学の教授に聴いた話です。
    人権の講義でのアンケートの自由記述の欄に、差別は自分には関係ないと書く人が、珍しくないそうです。
    差別社会の構造を話しても、だそうです。
    偏差値の高い大学で、しかも、教師を目指す大学で、どんな理解力なのかとちょっと驚きました。
    大学、高校、中学、小学校などの教える側、社会教育の担当者などの伝える側の人たちに、読んでほしいと思いました。

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