ヒューマンライツ情報ブログ「Mの部屋」101 「権利や自由」が自動保障されるマジョリティには、人権に無関心でいられる構造が働いている

 人権のことを専門的に扱う職について20年を越えた中で直面してきた課題はたくさんあります。最も多いのは、人権への「圧倒的な無関心」です。「動員」でないと知識を身につけることやアップデートをしない、講師など他者に知識等を与えてもらうことを求める、何故、マジョリティは、人権に無関心になってしまうのかを考察してみようと思います。

 人権(権利や自由)は、すべての人が、努力や実績とは関係なく、無条件に与えられると日本国憲法や国際法規で規定されています。しかし、マイノリティには、権利や自由が侵害されたり、制限されたりするような構造や制度、慣習や慣行、観念等が存在しています。社会や地域、組織内において、力を奪われたり、不公正な状態に置かれることなどがマイノリティに及ぶ・及びやすい社会構造が機能しており、私たちはこうした社会のなかで生きています。

 一方、偶然、マジョリティ側の属性を有して世に誕生した人に対しては、世界人権宣言等で規定されている権利や自由が保障されています。逆に言えば権利や自由を侵害されない・制限されない・されにくい社会構造が「オートマチック(自動的)」に用意されています。例えば、駅に関してエレベータがない・駅員がいない・構内や車両に段差があっても、健常者は「移動の自由」を行使できない・制限されることは、まずありません。なので、どの施設がどんなつくりになっていて、健常者の自分は、施設を利用できるかどうかを気にする必要がないということです。視力や聴力について、平均的な状態にある人たちには「情報保障」が行き届いた社会が用意されているので、さまざまな娯楽やサービス、情報に対して、本人の「気分次第」でアクセスしようと思えばいつでもできるという「選択肢」も与えられています。しかし、「障害」者にとっては、正反対な状態、健常者のようには権利や自由が保障されていない社会になっています。「障害」者は、日常のさまざまな場面で、自分の属性のことや社会のありよう、施設一つ利用するだけでも意識しないといけないことがあるのに対し、健常者には、それがまずありません。まるで健常者しかいないような社会構造、健常者を主軸においてつくられてきた社会構造で生きる中で、どんな不公正に直面させられているのか、どんな差別を受けているのか、どんな場面で「障害」者であることを意識させられているのかなどを、特に詳しく知らなくても生きていけるような、社会構造が健常者に機能しているからだと思います。

 日本国籍を理由に、日本国内において、居住・移転の自由を侵害される入居差別に遭遇させられることは、まず起き得ません。ゴミ出しの日を間違えても、仕事を失敗しても「日本人はダメだ・日本人だからな」などと評価されることは起きません。日本では、警察官や自衛隊員、消防士に就けるのは「日本国籍」が入口の必須条件であり、三重県では、公立学校の教員になるにあたって、日本国籍以外の国籍を有する人は教員になれますが、期限のない常勤講師にしかなれませんが、日本国内で日本国籍を理由に就けない仕事がある・就けても制限がかかるといったことは起き得ません。日本人は日本人であるという証明を携帯することを義務化されておらず、日本人である証明ができるものを携帯していなかった場合でも、刑法犯扱いされることはありません。日本で生まれ、日本で育ち、日本人である属性を理由に、権利や自由を制限されるような不公正な状態に置かれることはまず起き得ない、国籍を意識させられることがない社会構造や制度が、生まれ持って勝手に「用意されている」ので、「小難しい」人権を考えたり、知識を身につける必要性を感じることなく、生きることができます。だから、無関心に陥りやすい構造が働いています。

 異性カップルには、婚姻制度が用意されていることで、制度上の婚姻関係になるか否かを「選択できる」権利も与えられます。制度上の婚姻関係を結んだ中で、病院の面会を拒否される、携帯電話の家族割サービスに加入できる、生命保険の受取人にパートナーを指定できる、子どもの親権を児童付与され、支援制度を受けられる、年齢の近い異性カップルが手を繋いで歩いていても偏見や奇異な視線で見られることはほぼない、身近な人に異性が恋愛対象であることを勇気を振り絞ってカミングアウトをする必要もありません。こうした状態が自動的に用意された社会で生きられるので、人権に無関心になっていきやすくなります。

 シスジェンダー等は、体の性であてがわれる服や持ち物、おもちゃなどに抵抗を感じさせられることが非常に少ないです。男女別のトイレや更衣室を躊躇なく使用できる、トランスジェンダーがいない前提の社則や校則などのルールが気にならない、性別欄が用意されていても躊躇なく選択することができるといった社会が自動的に用意されています。だから、この構造やルールでは、トランスジェンダーが生きづらいのでは、働きづらいのでは、利用しづらいのではなどに関心を持たなくても生きていくことができます。

 最近実施された帝国データバンクが、日本の119万社の企業を対象に調査を実施した中で、社長職に就いている人の性別割合が、いわゆる男性社長は92%、女性社長は8%であったと公表しました。男女共同参画基本法を施行し、条例を制定する自治体が増える中でも、このような極めて偏った、不公平な結果がもたらされています。「社長職」に就くまでのプロセスが、どれほど女性にとって不公正で、能力や努力などを「正しく」評価されず、活かされない状態にあるのかを象徴的に示す結果の一つが社長職です。部長や課長についても、人数が多い「女性」が少ない状態も持続しています。法や条例が有効機能していないのに、改正などもしない状態は「異常」です。

 女性と男性が制度上の婚姻関係になった際、姓を変える割合について国が公表した数字を見ると、いわゆる男性が女性側の姓に変える割合は5%、女性が男性側の姓に変える割合は95%となっています。この社会の「主役は誰」になっているのかが、ここまで露骨で深刻な差となって現れる「女性差別大国」とも表現できてしまえる日本社会となっています。男性にとっては、無関心の方が優位であり恩恵がもたらされる社会です。だから、女性に対する不公正を解消しようとならず、不公正に加担する結果となる「何もしない」ことを選択する人たちが圧倒的に少ない状態になっています。

 被差別部落にルーツのない人たちは、被差別部落ではない出身地や属性を理由に、婚姻の自由が侵害される結婚差別に遭遇すること、被害に遭うことへの不安を抱かされること、反対されるような場面に遭遇した際、論理的にエビデンスを持って相手に理解を促す・説得するためのものを持っておくこと、持つ必要性を感じさせられることはありません。被差別部落にルーツがないことで偏見で見られない、ルーツを意識させられるような接し方を受けない、ルーツを理由に差別を受けることへの不安を感じさせられることがないという社会のありようが用意されているので、無関心になりやすくなります。

 年齢が上、勤務年数が長い、役職が上である場合、年下で勤務年数が浅く、役職が下の人に物を言いやすく管理下に置きやすい・コントロールしやすくなります。雇う側と雇われる側、教える側と教えられる側、指導する側と指導される側は、非対等な関係性がつくられやすくなります。前者には好都合な場合があります。

 「人権(権利や自由)は難しい」と自分と密接に関わっていることなのに、学び自体を遠ざけようとする、遠ざけることができること自体、権利や自由がオートマチックに保障されている証左です。もっと言えば、権利や自由といった小難しいことを知識として持っておく必要性を感じさせられない社会システムが、努力などとは無関係に用意されているので、積極的に学ぶことをしなくていいということでもあります。また、マイノリティがマジョリティと対等なかたちでチャンスや機会が与えられると、マジョリティの中には、それを不都合だと思う人たちも出てきます。限られた人数しか合格できない何かがあったとして、チャレンジする人数が少なければ、合格する確率が上がる中で、これまでマジョリティしかチャレンジしなかった状況に、マイノリティも参加できるチャンスが用意されると、チャレンジする人が増えるため、合格する確率が下がるという状態になります。こうして、マジョリティは自分たちの地位などが脅かされる、優位な状態が優位でなくなることを不都合だと思うため、アファーマティブアクションを停止させようと動き始める、非難する声を上げることがあります。

 マイノリティは、自分たちの権利や自由が、マジョリティと対等でなく、不当に侵害されたり制限されたりしている状況に対し、公正な結果をもたらすため、不当な差別を解消することを求め、法制定や施策を求めるための運動を起こしたり声を上げたりします。そのことにより法律や条例が制定されると思い入れが出てきます。マジョリティは、自分たちの権利や自由が保障される制度等がオートマチックに用意されているため、保障してくれている制度を「あって当たり前」という状態になるため、特段、何かの法令に対し、思い入れを持つ、国や自治体に具体化を求める、市民への周知に取り組むといったことは少なくなります。

 人権補償の営みは、マジョリティに体現される「当たり前」をマイノリティにも同等の状態の社会を構築するという、これまた「当たり前」のことです。そして、マジョリティが人権に対し無関心となる構造に抗える教育や啓発が求められています。

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