ヒューマンライツ情報ブログ「Mの部屋」25 部落差別を5つのエリアで把握する(前編)

 差別の現実と一言でいっても、その発生エリアは5つあることを、近畿大学名誉教授の奥田均さんは、著書「差別のカラクリ」で示されています。ここでは奥田先生の研究や見解をもとに、私なりの解釈で書いてみます。

①市民に根ざす差別意識「心理面の加差別の現実」

 都府県や市町村では、市民を対象に「人権問題に関する意識調査」が実施されています。仮説の設問を持って、利害が生じないと見えてこないような市民に根ざす差別意識を洗い出す作業の一つです。調査から明らかになった現実と課題を克服するために、差別解消のための啓発や教育などが展開されていきます。人権教育・啓発等に関する事業が必要である「根拠」の一つとなるものです。自治体の中には、市民意識をはかる調査すら実施されていないところがあり、とても驚かされます。自治体が実施した調査の一部を見ていきたいと思います。

 まず、三重県が2019年度に実施した調査では、物件を探していると想定し、気に入った物件が同和地区内に建っていることがわかった場合の態度について、「どれだけ条件がよくても買い(借りる)ない」が3割に及んでいます。

 次に、子どもの結婚相手が同和地区出身者であった場合の態度について聞いたところ、「迷いながらも結局は考えなおすように言う」「考えなおすように言う」を合わせると26.4%と4人に1人が結婚に反対するという結果になっています。

②差別意識から波及する差別行為「実態面の加差別の現実」

 ①は、あくまで仮説の設問に対する市民の回答です。しかし、市民に根ざす差別意識は具体的な差別言動となって現れています。宅地建物取引業に関して同和地区や外国人集住地域を避ける行為や、施設コンフリクト、身元調査、インターネット上に投稿される差別は、その典型です。

 2017年に実施された三重県宅地建物取引に関する人権問題の実態調査から、取引物件が同和地区であることがわかった場合、取引が不調になったことがあるかについて、8.1%があると回答しています。「そのような物件を取り扱ったことはない」「無回答」を除くと、その数値は2倍になります。

 次に、取引物件が同和地区であることを理由に取引価格に差が生じたことがあるかについて「ある」が13.2%となっています。

③氷山の一角である「差別事象」

 ②のすべてが明らかになるわけではありません。いじめやハラスメントが発生していても、被害者が声を上げられない、問題があることを認識していても公にしないなど、事象となるのは極めて少数です。氷山の一角とも言われる差別事象については、「2021年度 全国のあいつぐ差別事件」で紹介されています。

 土地差別調査事件や差別につながる同和地区の問い合わせ、公的機関や職員による差別言動、差別投書や落書き、電話、インターネットによる差別、就職差別など、全国各所で発生した悪質な差別事象の一部が明らかになっています。

④加差別の影響、社会構造の影響を受けるマイノリティの被害1「実態面の被差別の現実」

 差別を生み出す構造や市民によって引き起こされる差別は、被害者を生み出し、マイノリティの生活全般にさまざまな影響を及ぼしています。ここでは、生活実態調査や、マイノリティの差別被害の実例を紹介します。

 伊賀市が実施した同和問題解決に向けた生活実態調査では、過去5年間で差別被害を受けたことがあるとの回答が2011年で25.7%、2016年は6.4%となっています。

 差別被害の具体例を紹介します。

事例1

 当時交際していた相手に交際から半年後に、被差別部落出身であることを伝えた。交際相手が親にそのことを伝えた瞬間、それまでとても愛想よく話をしてくれていたのに、態度が急変し、交際をやめるように相手の両親が交際相手にせまった。これまでは、隔週で互いの家を行き来していたが、この日から、相手が一方的に家にくることになった。「いますぐ別れろ」「二度と連れてくるな」と言われたと交際相手が言っていた。この時から、交際相手は日々、「あいつとは別れたのか」ということだけでなく、「お前は知らないだろうが、部落というのはややこしい人間が多いところだ」などの発言が繰り返され、自分や家族、親戚や地元の人たちに対する差別的な発言が行われていることを交際相手が教え続けてくれた。

事例2

 きょうだいは、強くせまられたわけではないが、円滑に結婚することができ、その後の親戚づきあいを良好にするために苗字を変えてくれないかと提案され、悩み悩んだ結果、養子に行ったわけではないが変えることになった。そのことを今もきょうだいは引きずっている。苗字に差別の現実が刻まれている。

事例3

 きょうだいが部落出身を理由に結婚を3年ほど反対された。反対中に妊娠した際、結果的に死産していたが、中絶するよう交際相手の両親にせまられた。その後も交際を続けていたことが相手の両親にわかり、おとうとは相手の家に呼び出されたので、ついていった先で、暴言を吐かれたが我慢した。すると、相手の父親が最後に頭を下げて「お願いですから別れてください」と言ってきたので、「子どもさんを本当に傷つけているのは誰ですか」と伝えた。その後、相手の親戚などが動いてくれ、結婚が認められることになった。おとうとの結婚式の時、相手の両親がこちら側に来て謝罪をしてきたので、めでたい場で頭を下げないといけない差別の理不尽さを結婚式で突きつけられ、心から歓迎をしていたものの、複雑な心境になった。

⑤加差別の影響、社会構造の影響を受けるマイノリティの被害2「心理面の被差別の現実」

 差別被害を経験したり、経験することに不安を感じるなど、マイノリティは実態面だけでなく、心理面でも被害を受けています。

 結婚や交際時に差別を受けた経験のある人は、次の恋愛や結婚を躊躇したり、再び差別被害に遭うことを不安に思わされる、職場など日常の中で差別発言が飛び交うような環境に置かれ続けている人は、差別なんてなくならないと諦めさせられたりします。時には絶望したり。直接、差別を受けていなくても、自分も同じような被害に遭うのではと不安や心配を抱かされるなど、生活のさまざまな場面で、心理面の影響がおよび、安心した生活、自由に生きることなどが阻害されるなどの被害が現れています。

 大きく分けて、差別の現実は、こうした5つのエリアで起きており、それは部落差別だけでなく、他の差別問題にも適用できます。

 次回は、この5つのエリアに対応する施策について提案したいと思います。

 部落問題に関して、さらに詳細で専門的な文献をご覧ください。

 関西大学の内田龍史さんが著者・編集の本がありますので、ぜひお読みください。


 また、大阪市立大学の齋藤直子さん著の本もありますので、ぜひお読みください。

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 ご覧いただき、ありがとうございました。

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