ヒューマンライツ情報ブログ「Mの部屋」26 差別って社会構造の問題なんで、バキバキに「起きてます」けど、「寝た子を起こすな」って何?

 「寝た子を起こすな」。現在でも、差別問題が取り上げられた際に登場し、強い影響力を持っています。早速ですが、5月21日から上映が始まる部落問題を取り上げたドキュメンタリー映画「わたしのはなし 部落のはなし」の予告動画がYouTubeに投稿されましたが、動画へのコメントに寄せられている内容に書かれていましたので、原文ママで紹介します。

 「部落」なんて学校で習うまで知らなかったし、どうでも良かったし、差別する意識なんて毛頭ない。 何でもそうなんだけど、あまり被害者被害者言い続けてると、言われる方も良い気はしない。 こういう映画を出すことで差別意識が消え去らない。 いい意味でお互い「忘れる」事が大事なんだと思う。

 30代だけど部落差別は馴染みは全くなく、知らないし話題にもならないから部落だからここの地域は嫌だなという感情もなかったもちろん自分の周りの人も同じだと思う。だけど啓蒙活動や学校の教育で部落なんてあるんだと知ってはじめてネットとかでこの地域は部落だったんだみたいなことを知って皮肉なことに知ることで差別的な意識が自分に生まれた気がする。難しい問題だけど啓蒙活動が差別を生み出すという側面もあるんだなと最近思うこともある

 こうした考え方に、今では「現代的レイシズム」と言われる「利権」「優遇」「逆差別」といったものも同乗しはじめ、「寝た子を起こすようなことをわざわざするのは『差別がある』と主張し、不当に利益を得るためだ」「差別がなくなったら困る人たち」「運動や当事者が差別を生産している」というような、とんでもない主張も増えてきました。

 あえて押さえておきますが、部落問題に限らず、在日コリアンをめぐる問題の時も、女性問題の時も、「障害」者問題の時にも、「寝た子を起こすな」論はマジョリティにより主張され、マイノリティの声がかき消されたり、そもそも表現できなくなったり、前述したように新たな差別となって、さらに権利が侵害されるような問題が起きています。

 まずは、おさらいです。

 差別とは社会構造によりもたらされる社会問題であり、制度・事物・慣習・構造に関わる問題です。差別発言や落書き、ネットへの投稿、身元調査、結婚差別、就職差別等は、あくまで発生形態の一つであり、こうした個別的な問題は、構造的に発生していることを理解することが、差別問題の大原則です。

 つまり差別は「寝ていない」「寝られない」問題であるということです。そもそも「起きている」問題です。すでに起き続けている問題を「寝ている」と曲解し、「起きている」問題に対して「起こすな」という意味不明な主張であるということです。構造的に社会に存在する差別のことを問題視するマイノリティの声に対して「寝た子を起こすな」をあたかも「正解を言っている」「正しいことを主張している」というのは、とてつもないお門違いです。

 そして構造の問題であるため「何もするな」「何も語るな」ということは、差別構造を維持させることを肯定している結果となるため、差別に加担する、差別を容認する以外にありません。

 そして、この「寝た子を起こすな」がマイクロアグレッションにつながるという加害性があることも、マジョリティは認識できないといけません。マイクロアグレッションについては、こちらをご覧ください。

日本は「寝た子を起こすな」を何度も経験済み。そして差別が維持された。

 他にも、知識的なこととして、今年は全国水平社創立から100年を迎えた年になりますが、太政官布告が廃止された「いわゆる解放令」発布から50年もの間、日本は部落差別を解消するための取り組みを展開してきませんでした。50年間、「寝た子を起こすな」状態を実際に経験してきたのです。しかし、差別はなくなるどころか、どんどん差別行為などのハードルが下がり、差別は過激になり、深刻な人生被害をもたらすことになったことから、これは黙っていられないと、被差別当事者が立ち上がったのが全国水平社であり、タイミングや動機は違えど、他のマイノリティ団体の立ち上がりであるわけです。

寝た子を起こすなで解決された差別問題はない

 小見出しの通りです。こうしたことを言うと「そもそも解決された差別はあるのか」という意見が出てきます。この場合、たいていが差別の解消に取り組んでいないことがほとんどです。あなたが差別の解決に向けて何もしていないから、たった一人が動いても何も変わらないではなく、たった一人から始めていくことが積み上がり、マジョリティすべてが差別の解消に向かおうと努力を積み重ねていけばなくなるのに、マジョリティがマジョリティを教育することなく、マイノリティに差別問題解消の責任を押し付け、ましてや差別構造に加担しているので、なくなるはずもありません。

 しかし、マイノリティの権利獲得のための闘いは、着実に社会をあるべき方向へと動かしてきています。つべこべ言う前に、差別をなくすための行動を起こすべきです。

 これがすべてではありませんが、「寝た子を起こすな」論を否定してみました。

 ご覧いただき、ありがとうございました。

4件のコメント

  1. >つべこべ言う前に、差別をなくすための行動を起こすべきです。
    ↑まさに名言。100%共感します。いずれにせよ、「Mの部屋」ブログはホンマに痛快・爽快になれます。日常のマイクロアグレッションの中で疲れ果てた時に、「Mの部屋」に元気をもらっています。ありがとう。

    1. ちょっと過激かなーと思いつつも、伝えたいことを発信し続けたいと思います。ありがとうございます。

返信を残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA