ヒューマンライツ情報ブログ「Mの部屋」42 部落の外で生活するルーツある人たちの「部落(問題)観」

 部落の外で暮らすルーツのある若い人たちがどんどん増え、東京を筆頭に、都市部に人が集中するようになっているということは、マイノリティも同様に、都市部に集中しているということです。

 関東地方に居住し、活動してくれている同級生は、部落の外で部落問題に取り組む先駆者というべき存在です。

 かつては、アイデンティティのあり方や従来の主流だった「部落生まれ、部落育ちで、部落という地元を基盤に、部落差別をなくす活動をする」という人たちが部落のマジョリティでしたが、どんどんと部落の外に住む人たちが増えてきたことで、部落乃外で生まれ育つルーツのある人たちが「マジョリティ」になっていると思います。

 都市部ではなく、地方でも同じ市内や校区の部落の外で生活している人たちも増えています。

 最近、特に部落の外で暮らす20代の2人、40代・60代・70代の方とお酒を呑んだり、立ち話をしたり、メールでやりとりしたなかで、新たな発見があったり、モヤモヤするものを感じたりしています。

「差別は随分、減ってるやろから、もう教えなくていいと思う」

 20代の2人(一人はいとこ)は、小学生の時、地区内に住んでいて、バリバリに地区学習会などで活動してきた子たちです。休みの日に釣りにつれていくなど、15歳ほど離れていますが、近しい関係です。

 この子たちと、あることをきっかけに呑みに行くことになりました。私と部落問題について話がしたいとのことでした。2人は被差別体験は一度もありませんが、地区にルーツのある地区外居住版の「寝た子を起こすな論」を兼ね備えていて、地区の外に出たことで部落問題や出身であることを意識する機会、意識させられる機会がない中で、「差別を見ないし聞かないし受けていないので、騒がないほうが、教えない方がよいのではないか」という考え方をもっていて、これが正しいのかどうかを「専門家(皮肉入りです笑)」から聞きたいとのことでした。「親の代以前は厳しかったやろけど、今はもう、差別は随分、減ってるやろから、もう教えなくていいと思う」と話してくれました。

 ところが、結婚時には、相手に部落にルーツがあることをカミングアウトはしたそうで、それは後々に問題になるのは嫌だということでした。「万が一」を想定し、カミングアウトした以上、差別が現存することを体現していると感じました。なので、結婚時には「意識させられた」経験をしています。今のところ、部落にルーツがあることを子どもに伝える予定なし、地区学習会に通わせる予定もない、その必要性を感じないという状況です。

「なんやかんや言われても、外に出るのが正解やぞ」

 40代(友人)と60代の方(親戚)から出た共通の言葉です。

 地区から出たのは部落差別はなくならないから、自分や家族、子や孫を差別から遠ざけるために出たということも聞かせてくれました。地区を出る時には「逃げるのか」と言ってきた人がいたし、土地を探してくれた人もいたけど、地区から出ることは決めていたということでした。

 地区のなかには働きもせず、行政に「甘えている(この人はそう思っている)」人もおり、そんな人が他地区に迷惑をかけている。こちらは真面目にやっているのに他地区の人から同じように見られてしまうのは非常に腹立たしい。地区にルーツのある本人に言っても変わるとは思えないので、地区の外に住むことで、そうした差別や偏見を回避できると思ったようです。

 少数の人が問題を起こしたとしても、属性や居住地で一括りにするほうに問題があるというのはわかっているのですが、部落の内側と外側、双方の意識が変わらない、変えられていないから、外に出て家族や子どもを守るために転出したと教えてくれました。終わりなき問題であり、被差別の側が地区の外に出た方が差別被害のリスクを大きく減らせるという、あきらめです。ちなみに、いずれも地区の外に出ても、家族が差別に遭遇しています。

「永遠に続く問題に一生懸命、取り組む姿に頭が下がります」

 これは、最近、叔母から送られてきたLINEのメールです。このような内容のメールが叔母から送られてくる時は、叔母が購読している新聞に私が登場した時です。叔母もさまざまな差別を経験しています。部落にルーツがあることをはじめ、子どもが欲しかったのですができなかったことについても、嫌というほどマイクロアグレッションを受けてきた人です。私の母の姉で、妹である母が先に逝ったので、私たち家族のことをとても気にかけてくれています。

 本音をストレートに伝えてくれるハキハキ言う人で、物おじせず、コミュニケーション力は美容師も影響してかとてつもなく強い。でも、私には気を使ってくれているのが、とても伝わってきます。「取り組んでもなくならないのに」です。でも、私の意欲や熱意を叔母が下げてはいけないと、自分に嘘をつきながら、でも本音は若干オブラートに包みつつ、必ず含めるという感じの会話やメールをしてきてくれます。

 ちなみに、母には弟もいて、この人は「(差別を)する人はするから、そんな人を相手にしても仕方がない」と直接、聞いたことがあります。

マジョリティである部落の外にルーツのある人たちへのアプローチ

 地区にルーツのある人たちによる「寝た子を起こすな論」は、かつては地区内から発動されていましたが、外側からも発動されていて、他地区の人たちにも、これまでと少し違う影響を持っていることも最近わかってきて、新たな課題だと思っています。

 経済面や文化面で言えば、部落の外に住む人たちは、それなりの地位を有していると思っています。ただし、被差別体験のある人は、差別の厳しさ故に解消することはないと諦めさせられ、地区から遠ざかること、痕跡を薄めることで差別を回避しようとする人、差別に一度も遭遇せずルーツや属性を意識させられないことで、寝た子を起こすなをほぼ確立しかけていた20代。

 どうすれば部落の外の人とつながれるのか、どうすればその人たちは差別の解消を諦めなくてよくなるのか、どうすれば寝た子論を乗り越えられるのか、どうすれば差別はなくなるのか、差別解消への道は続きます。

 ご覧いただき、ありがとうございました。

4件のコメント

  1. 今号も部落問題について深く・深く考える時を過ごせました。ありがとう。私は被差別部落にルーツを有さない(親から聞いた限りでは)ので、ある意味「加差別の側」から部落問題と向き合っています。ただ、これまでの40余年にわたって学んできた部落問題学習のおかげで、小学生の孫たちと係わるようになって初めて「憧れの仕事に就き、好きな相手を結婚し、心豊かな人として生きられる」社会を実現させたいと心底から思うようになりました。(気づきが超遅いけど‥苦笑)。まだまだ道程(みちのり)は半ばだけど、こつこつと地道に”よき日”を目指して取り組みを展開して行こうと思います。同志M氏と共に!<※毎回きっちりとコメント投稿せずに「橋杭岩」のように投稿したり・しなかったりの凸凹な投稿でゴメンなさい。>

    1. 私の場合も、子どもができて部落問題との向き合い方について、自分でも気づかなったギアがもう一段階、入りました。生きやすい地元をつくってくれた先人たちの思いを受け継いで、地元から社会へと、この生きやすさを実現していけたらと思うところです。

  2. いつも勉強させてもらってます。
    私の地区とMさんの地区が同様に見えます。過去の歴史的なこと、現在の状況なども。
    私の地区にも、これ以上騒いでも何にもならんと言う人もいます。(寝た子を起こすな)
    裕福な人は特に、金さえあれば他所の者でも頭低いわと誇らしげに(残念な人)
    その他、またどうせ隣り町の人間は、わしらの事嫌ってるんやから、負けてはならない。
    今のこの時代にも、過去の部落問題から、何かあれば・・・常に敵対心だけが残っています。
    そして表向きは他地区と触れ合う事はありますが、何かの拍子には必ず多種多様な問題が起きてきます。裏では色々あると思います。
    一番大きくは、やはり結婚差別、就職差別ですね。私の姪っ子は平成生まれで、数年前に旦那側の親親戚などに反対されたそうです。
    娘の友達は昨年結婚反対で駆け落ち状態。
    あと、娘もこれは明らかに!!とゆう就職差別(地区名書いたことによる不採用)。
    あとはいまだ貧困者が多く、村の中で大企業に勤める人はごく一部、、ほぼ契約社員や非正規雇用ばかり。
    老後を心配する住民の悩み相談も受けましたが、何とか手立てはないものかと必死に模索してます。
    部落差別問題についても、各地域の問題や取り組みは必要です!
    犯罪が起きないよう警察官もいれば、我々のように人権に関する問答があれば、それに対応できるよう力になりたいし、抑止的に考えていきたいと思います。
    とにかく部落差別問題には常に関わっていきたいと思いますね^ – ^

    1. どこも同じような課題を抱えているということですね。
      まだこの時代においても、結婚や就職時等で差別が起きているのに、取り組むべき責務を有する職種の人たちが取り組まない。そのことで、やまけんさんがご指摘されている差別が起きる状態を招いていると思っています。取り組まないとなくならない問題です。

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