ヒューマンライツ情報ブログ「Mの部屋」34 都道府県初の包括的差別禁止条例が制定されたので紹介・解説します(後編)

 それでは、前回に引き続き、5月19日に公布・施行された条例について紹介・解説していきます。前回の内容はこちらです。

第12条 被害を受けた方に関する相談の取組です

 県は、差別等の被害を受けた本人やその家族、また関係する人からの相談に応じます。県は、相談があったときは、

 1つめに、市町や関係機関等と必要に応じて連携し、助言や調査、関係者間の調整などについて対応します。

 2つめに、必要に応じて、関係機関に通告、通報その他の通知を行います

 3つめに、相談を受ける側の人は、仕事上、知った秘密は漏らしてはいけません。また、その仕事を退職したり辞めたりした後も同じです。

 4つめに、県は、相談とその対応を的確に行い、また有効な取り組みを進めていくために、必要な人員を確保して、相談を受ける側の人に、知識やスキルを身につけて、それをさらに向上する研修に取り組みます。

 なお、ヘイトスピーチをはじめとする不当な差別等の目撃等をした人も相談をすることができる人になります。

第13条 差別を受けた人が相談をしても解決されない時は、知事に申し立てができます

 差別被害を受けた人は相談しても解決しない場合は、三重県知事に問題を解決するために必要な助言や説示、あっせんなどをしてほしいと申し立てができます。ただし、申し立てができない場合もあるので、条文をよく読んでください。

第14条 申し立てを受けた知事は、こう取り組みます

 知事は、申立てがあった時は、申立てに関わる差別事案が事実かどうか、どのような内容であるかなどについて調査を行うことができます。この場合、申し立てした人や関係者は、正当な理由がある場合をのぞいて、調査に協力しなければなりません。

 知事は、助言や説示、あっせんや調査を行うために必要がある時は、その対象となる差別事案に関係する県の機関に、資料の提出や意見の開陳、説明その他の必要な協力を求めることができます。

 知事は、助言、説示又はあっせんを行うに当たり必要がある時は、三重県差別解消調整委員会の意見を聴くことがありますが、状況によっては知事が打ち切る時もあります。

第15条 知事は勧告もできるようになります

 知事が助言や説示、あっせんを行った場合、差別をしたと認められる側が、正当な理由なく助言や説示、あっせんに従わなかった時は、当該者に必要な措置をとるよう勧告することができます。

第17条 何が差別でどのように取り組んだかを公表します

 知事は、差別事案の発生の防止するためや、差別事案が発生した場合、解決に資するため、に行った助言や説示、あっせんや勧告を行った場合、関係者の秘密となることを除いた必要な内容を一般に公表しますが、特別の事情があるときは、公表しないことができます。何が差別事案になったのか、どう取り組み、どんな結果となったのかを広く知らせ、未然防止などに努めていこうとするものです。

第18条 差別調整委員会なるものを設置します

 調整委員会は、知事が助言や説示、あっせんを行うにあたって意見を諮問した場合に、調査や審議を行い、答申することができます。具体的には、①不当な差別にあたるかどうかの判断が妥当であったかどうか、②助言や説示、あっせんの案の内容が妥当であるかどうかについて調査や審議を行い、答申することを想定しています。

第19条 差別をなくすために取り組む人権教育と人権啓発とは

 人権教育・人権啓発の具体的な内容は逐条解説を紹介したほうがわかりやすいです。

①さまざまな不当な差別などの人権問題について理解を深め、それらを自分自身の課題として捉え、それらの解消に向けた具体的な行動につなげられるような教育・啓発

②なぜ差別などの人権問題が発生するのかを考えることを促す教育・啓発

③世界人権宣言・人権に関する諸条約・本条例をはじめとする人権に関する法令や条例の認知度向上を図り、それらの内容理解を深める教育・啓発

④不当な差別などの人権問題の解消に当たって障壁となるような慣行や観念などを改善していくことの意識付けを図る教育・啓発

⑤自分自身が権利の主体であることの認識を促し、権利を行使するための制度等について理解を深めるとともに、他者の人権を尊重しようとする態度を育む教育・啓発

⑥人権侵害行為を被っている人をはじめ、全ての人が自分を価値ある存在であると認識し、誇りをもって自分らしく生きようとする意欲や態度を育む教育・啓発

などが想定されています。

第20条 人権侵害などの被害を受けた場合の救済です

 基本的には情報を提供するとなっていますが、必要な支援として、関係機関につなぐことや福祉サービスを提供すること、身の安全を確保することなどが含まれ得ると考えられます。提供される「情報」としては、人権侵害行為の被害者の救済に関する制度(三重県犯罪被害者等見舞金制度など)、機関(法テラスなど)、団体(DV被害者の ための民間シェルター運営団体など)などが想定されています。

第21条 丁寧で的確に差別の実態を把握する調査が必要です

 実態調査の具体的手法としては、人権問題に関する県民意識調査とともに、不当な差別等を受けている・可能性のあるマイノリティに対する生活実態等の調査などが想定されています。そうした調査や人権施策を進めるのは人権担当の課を有する部局だけでなく、各人権問題に関係する部局等が、担当部と連携して、それぞれの人権問題に応じた実態調査を実施することが望まれます。

第22条 情報を収集、蓄積した上、分析も行い施策につなげます

 実態調査が能動的に、差別や人権侵害被害などの実態や情報を得ようとするものであるのと同時に、県の機関における相談事例等の受動的に県が得た情報や他自治体の相談事例等の既存の情報について収集・蓄積・分析を行うものです。

 情報の収集・蓄積・分析の結果等については、その情報に係る関係者の個人情報の露見等につながらないよう、人権に配慮した上で、県民に対して公表され、人権教育・人権啓発などに活用されることが期待されます。具体的には、人権施策基本方針に基づく施策の実施状況の年次報告への掲載などが想定されています

第23条 インターネットを通じて行われる人権侵害行為の防止へ

 SNSをはじめ、各種ネットサービスにおける差別的投稿や誹謗中傷をはじめとするインターネットを通じて行われる不当な差別などの人権侵害行為が深刻な現状であることから、インターネットを通じて行われる人権侵害行為を防止するために必要な措置を講ずることについて明記しています。

 インターネットの適切な利用に関するリテラシーとは、インターネットの利便性や危険性、基本的なマナー等を理解して、正しく情報を取捨選択し、適正な情報を発信し、また、インターネット上のトラブルを回避して、インターネットを適切に利用する能力のことをさしています。

「必要な措置」の例示としては、

①モニタリング

②インターネット上での人権啓発

③インターネットリテラシーの向上を図るための教育・啓発を挙げています。

 県議会でつくられた条例ですが、具現化するのは、条文内にあるようにすべての県民であり、事業者です。条例を「活かす・育てる・鍛える」ために、わたしやわたしたちにできることを考え、実践していくことが求められています。

 ぜひ、この本もお読みください。


 ご覧いただき、ありがとうございました。

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