ヒューマンライツ情報ブログ「Mの部屋」40 今、求められる人権施策って何② あらゆる人権問題に「合理的配慮」を!でも部落問題はちょっと違う?

 前回は、実態を把握するための調査の必要性について書きました。今回は啓発等の取り組みについて書いてみます。

 前回の内容はこちらです。

 人権施策に関して、意識を変えようという視点に立った取り組みが非常に多く採用されています。決して悪いというわけではありませんが、そもそも変えようと思う差別意識や偏見は何からきているのか、その根源から断たないと問題の本質的な解決には至りません。

 差別は「事物・制度・慣習・構造」という社会問題であることをこれまで指摘してきました。つまり、差別を生み出し続ける社会の事物・制度・慣習・構造を変革することが差別の解消につながっていくということです。

 この点で政府や自治体で必要な施策は、「合理的配慮」と呼ばれているものではないかと思っています。マジョリティにはすでに、この社会が用意している「特別支援」「合理的配慮」が、マイノリティには未だ与えられていないという不平等な状態が続いています。いくつか例を挙げ、取り組みを書いてみます。制度や慣習、構造を変えることが重要です。

事物に関する社会的障壁や差別

①階段しかない建物や駅

 →エレベータの設置やスロープの設置等のバリアフリー化 等

②座位では利用できない環境や機器

 →エレベータ等のボタンを下に設置。商品を低い段に配置。車椅子でも対応できるATMや洗面台、自動販売機の開発 等

③宿泊施設のトイレやバスユニット等

 →バリアフリートイレやバスの設置

④男子・女子の2種類しかないトイレや更衣室

 →多目的トイレ、個室の更衣室の設置 等

こうした事例はほんの一部ですが、このような物理的な障壁を取り除くことが求められます。

制度に関する社会的障壁や差別

①「障害」者のみに求める事前予約・連絡制

 →「障害」者に限定した予約や連絡制の廃止

②墨字のみの試験・筆記を求める試験

 →点字での対応

③「障害」者を排除する採用条件や労働条件

 →欠格条項の撤廃

④同性愛者を排除する婚姻・扶養制度

 →異性愛者と同様の制度設計

⑤配偶者控除・相続税の税額軽減・配偶者ビザからの排除

 →異性愛者と同様の制度設計

⑥異性愛の婚姻に限定された就業規程や慶弔規定

 →異性愛者と同様の制度設計

⑦性別適合手術は公的医療保険が適用になったが、手術前のホルモン剤を使った自費治療している場合は「混合診療」とされ、手術で保険を使うことができない

 →保険適用範囲の拡大

⑧日本国籍者に限定された就労・採用条件

 →国籍条項の撤廃

⑨技能実習制度における職場を変える自由の規制(職業移転の自由否定)

 →実習制度の改正(職場移転の自由化)

などが、マイノリティへの差別構造を作り上げています。制度面における差別を禁止する、解消するための仕組みづくりや既存制度の改正が求められます。

慣習に関する社会的障壁や差別

①音声情報中心・日本語のみのアナウンス等

 →文字や多言語などの多様な情報発信

②視覚でしかわからない書類、署名、印鑑(その他、タッチパネル等)

 →点字や音声情報などでの対応

③マイノリティ属性を理由とする入居や利用拒否

 →入居差別の禁止

④海外ルーツのある人への悪しき労働条件(長時間労働、低賃金、賃金未払い、いじめやパワハラ等)

 →海外にルーツがある人たちへの差別の禁止

⑤同性愛パートナーの病院の見舞いや付き添いの禁止

 →同性愛者への差別の禁止

⑥男・女の2種類に分けられたもの(制服、授業や部活、名簿等)

 →性に捉われない条件整備

⑦トランスジェンダーへの医療受診の拒否

 →受診拒否差別の禁止

⑧出生届の「嫡出子」か否かのチェック欄

 →マジョリティに求めない情報収集や条件請求の禁止

部落問題が他と違うのは「事物・制度・慣習」の差別がほぼ該当しない

 部落問題は、こうした事物や制度、慣習というものに関わる問題ではないという個別性があるように思います。事物に関する差別が起きているわけではありません。国籍や戸籍等の社会的登録に差異があるわけではありません。

 慣習で言えば、身元調査や釣書を交わすなどがありますが、それが直接的に部落差別につながる危険性や問題性を有するのではなく、そうした慣習等が部落差別につながる「可能性」があるということです。地域によって、神事などから排除されてきた歴史がありますので、必ずしもないというわけではありませんが、制度や事物に関してはないに等しく、慣習についても明確に判断しにくいものがあります。

 ただし、差別発言を受ける、結婚差別に遭う、落書きや封書、インターネットを通じて差別被害に遭う、マイクロアグレッションに遭う等の問題が起きているため、構造的問題であることは間違いありません。

 部落差別行為を規制する法律がないなどの今起きている問題に対する有効策が講じられていないが故に問題が起きています。

 結論としては、「合理的配慮」のような社会の事物・制度・慣習・構造を変革するための具体的な施策を展開していこうということです。

 ぜひ、こちらの本をお読みください。


 ご覧いただき、ありがとうございました。

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