ヒューマンライツ情報ブログ「Mの部屋」36 包括的差別解消条例の意義をわかりやすく(?)書いてみた!

 前回2回にわたって条例の解説をしました。

 今回は、条例が制定された意義について「わかりやすく?」書いてみました。十分でないことを承知の上で発信していくことはやっていきたいと頑張ってみました。

1.条例が公布・施行されたことの意義は何でしょうか。

1)差別や人権侵害を定義し、それを禁止した条文が位置づけられ、相談事例や内容により県が介入し、助言や指導、あっせんや勧告をできるということが、差別行為の抑止につながることが期待されます。

2)差別や人権侵害の定義があることによって、差別にあたる・あたらないといった議論により問題解決を遅滞させるような状況を回避できるようになることが期待されます。

3)基本理念等にはこれまでの条例よりも、さらに差別解消に踏み込んだ条文が明記されています。特に「不当な差別その他の人権問題の解消にあたって障壁となるような社会における制度、慣行、観念等の改善を図ること」と明記されたことで、意識を変えることに重点を置かれてきたこれまでの施策から、構造等を変革する合理的配慮のような施策の展開が期待され、県における差別解消をめざす施策が、より有効なものとして展開されることが期待されます。

4)県の責務規定がこれまでの条例以上に具体的に明記されたにより、人権課や人権センターにウェイトが置かれ過ぎていた差別解消や人権施策が、関係部局(「障害」者差別は障がい福祉課、ヘイトスピーチや外国人差別、女性差別、性的マイノリティへの差別はダイバーシティ社会推進課、感染症差別は医療政策課、人権課は部落差別等)によって施策(構造変革、合理的配慮、啓発、県民意識調査やマイノリティの被害実態調査等)が展開されることが期待されます。

5)県民や事業者の責務規定がこれまでの条例以上に明文化されたことで、県民や事業者における人権尊重の取組がより前進することが期待されます。

6)差別の紛争解決と、県が差別事案に介入することが明文化されたことにより、被害者への負担が軽減されることが期待されます。これまでは差別被害を受けた側が、時間や労力、時には費用をかけてリカバリーさせられてきたという極めて理不尽な状況にあったが、県が介入することを義務化したという点で、被害者に負担をかけない状態をつくることが期待されます。

7)段階的な取組(指導、あっせん、勧告)により、差別事案の解決への道筋が従来以上に明確になったことが期待されます。

8)県は主体的な差別の是非判断を避けてきました。条例等で差別の定義がなかったからです。しかし、本条例に明記されている差別解消調整委員会により判断が行われるで、従来以上に、差別解消に取り組みやすくなることが期待されます。

9)救済に関して具体的な内容は明記されていないものの、被害救済について言及していることで、これまで以上に救済への道筋が具体的になることが期待されます。

10)これまで県や県教育委員会は、差別事案を公表してきませんでした。そのことにより県民の差別の現状認識が低下し続け、現代的レイシズム(差別はないにも関わらず、マイノリティは「ある」と主張し不当に利益を得ている等)を生み出す状況をつくりあげています。県民の差別の現状認識を高めることは、何が差別にあたるのかが広く認識されることにより問題の抑止効果が期待されます。同時に、現存する差別に対して、県民や事業者自ら差別をなくすための行動をとっていくことを喚起することにもつながることが期待されます。

11)インターネット上の差別等への取り組みについて明文化されたことで、条例という裏付けができ、当法人よりも県がモニタリングに取り組んでいることを公表していけるので県にとってやりやすくなったと考えています。公権力による検閲であるといったことや表現の自由を脅かしかねないなどの議論もありますが、条例に基づいて取り組まれることであるため、条例の目的を達成するために必要な施策であることが明文化されたことは評価できます。

12)県はこれまでマイノリティへの被害実態を明らかにする調査を実施してきませんでした。逐条解説にあるように、関係部局が定期的に各マイノリティに被害実態を調査し、相談にすらあがってこない被害をアウトリーチで把握していく取り組みがされていくことが期待されます。

2.説示やあっせん、勧告が明文化されたが、名前の公表は行わないことで、どれほどの抑止効果が期待されるでしょうか。

 差別は、多くが悪意のない人たちがする問題として捉えているので、本条例の定義等に照らし合わせ、県が介入するとなった場合、当事者間の対話によって解決される可能性は高いと思います。一方、確信的に差別行為に至る人物や団体に対する抑止効果があるかどうかについて、他府県の例を見ていくと、ヘイトスピーチをともなう街宣などへの再発防止効果は明確にあるとは言えないと考えているため、十分ではない可能性があると思います。被害が生じるという点で決して看過できるものではありませんが、そのような事例が県内で発生した場合、それを立法事実として条例の強化改正につなげていく必要があると考えています。

3.被差別部落の所在地を公開するなどの行為は「当事者間の紛争とは言いがたい」として、説示や勧告などの対象から外されました。また、特定の民族などへの差別をあおるヘイトスピーチも、多くの場合、特定個人を対象としていないため、同じように対象から外されたことについて、どうでしょうか。

 本来は、国や政府において、ご指摘のような問題への抑止効果が現れていないという現実を踏まえた課題に対応するための法改正(定義と禁止、抑止効果につながる規定)が行われるべきですが、法施行から6年が経過しようとしていますが、未だに具体的な動きがありません。そのことが問題を発生させ続けている要因でもあるため、国や政府があるべき対応をとることが急務です。

 また、人種差別撤廃条約の第4条のa、b項を保留し続け、完全に批准しない姿勢に問題があると考えています。本条約を早急に批准し、国内法を整備し、差別やヘイトの未然防止に有効なシステムを構築する、施策を打つことが急務だと考えます。

4.神奈川県川崎市条例や、同時期に制定が進んだ愛知県条例では、県営の施設での人権侵害行為について「利用制限規定」が設けられていますが、今回の条例では「防止に努める」との規定にとどまっています。実際に、県営の施設でヘイトスピーチなどが行われても、催しを中止させることが困難ではないでしょうか。

 本来は、他府県ですでに公共施設を利用したヘイトスピーチの問題が発生しているため、未然防止のためにも利用制限規定が位置づけられるべきだったと考えています。しかし、明文化には至らなかったため、今後、県内で他県のような問題が生じた場合、そのことを立法事実として、条例の強化改正につなげていく必要があると考えます。

5.助言、説示、あっせんなどの紛争解決措置を行う場合、知事が必要に応じて意見を聴く「差別解消調整委員会」と「人権施策審議会」の人選について、どのような人が望まれるでしょうか。

 まず、被差別の当事者性をもつ人が就任され、かつ差別解消調整委員会や人権施策審議会の役割を担える人が就任される必要があります。当事者参画は、マジョリティが気づけない、認識されにくい問題であるためです。調整委員会や審議会においては、当事者性を重視することを大切にしつつ、何故、当該事案が差別にあたるのか、何を明らかにすべきか、どのように取り組むべきかの方針などを打ち出せる人選が求められます。人権施策については県が実施する差別撤廃の施策が、差別の撤廃に有効であるかどうかを評価・検証することができ、県に向けて有効な政策を提案できる人選が必要だと考えます。県で基本方針等がつくられていきますが、たたき台まで県がつくりあげ、そこからは審議会で政策提案できる委員から政策提案する場を設け、当事者や有識者によりつくりあげられる方針や計画づくりが望まれます。

6.県議会議員、知事、公務員に対し、高い人権意識をもって条例の目的を達成するための役割を果たすことを責務としたことについて、どのような意義があるでしょうか。

 公権力の側にいる人たちによる差別やヘイトスピーチは、県民に差別やヘイトスピーチのお墨付きを与えてしまいます。この間、国会議員や地方議員によってウイルスの呼称に地名が用いられた問題などもありました。SNSにおいてヘイトスピーチや差別を助長・誘発する投稿を行う公権力者もいました。そうした問題を防ぐために重要な規定です。このことを実現していくために、推進計画などを策定する必要があると考えます。

7.この条例が活かされるために、これから、どのような取り組みが必要でしょうか。

 人権施策審議会の役割は非常に大きいと思います。県も何を審議してもらうのか、審議委員がどのような政策提案をし、県の関係部局がそれを受けて何をどこまで実行していくのかがとても重要です。

 県内のマイノリティが連帯し、県や議会に働きかけて必要な人権施策を求めていくことも必要です。マイノリティがこの条例が施行されたことをどこまで認識しているか、この条例が何に使えるかなど、学習する機会をつくることも必要だと考えます。

 マイノリティが積極的に差別被害を受けた際、相談を実施していくことも求められます。インターネット上の差別やヘイトについても通報や削除依頼で「対処されない」事例、差別被害を受けた際の事例が県に届けられ、現行条例では対処できない事例を積み上げることにより、差別解消に有効なものへ、差別の抑止につながる有効なものへと条例を強化改正していくことが求められると考えます。

8.その他① 差別の定義をわかりやすく提示することが求められます。

 まず、差別や人権侵害の定義が一般的に理解されにくい難しい文言となっています。県民にわかりやすく認識されるためにも、この定義はどのような差別や人権侵害の例をさすのかの具体例を提示することが必要だと考えます。例えば、「『障害』がある、海外にルーツがあること、同性愛カップルであることを理由に、入居を拒否する、入店や施設等の利用を拒否した場合は、この定義の〇〇に該当します」というようにです。

9.その他② 相談事例もわかりやすく提示することが求められます。

 相談に関しても、相談の事例により、どういった内容の場合は、どこの部局や団体につながるのかというフローチャート図をわかりやすく作成し明示すること、実際の相談事例をもとに、こういった相談に応じ、このような部局や団体につないだことによって、このように解決した例があるなどを明示すると、差別や人権侵害の被害を受けた人が相談しやすい状況につながることが期待されます。

 法務省はこのようなフローチャートを公表しています。わかりやすいです。

10.その他③ 制度や慣習、構造を変えるための調査と取り組みが求められます。

 障害者権利条約や障害者差別解消法では、合理的配慮の提供について明文化されています。「障害」者の社会参加を阻害するような社会障壁の撤廃がこれまで進んだのは、合理的配慮の規定があったからです。段差のある建物やエレベータのない施設、手話通訳や要約筆記などの情報保障、公務員採用試験の受験資格にあった欠格条項の撤廃などが、まだまだ課題がありますが、大きな変革をもたらしています。

 例えば、事象者の就業規程などのなかに結果として同性愛パートナーに不利が及ぶような規定はないか、異性婚パートナーにのみ特定の手当などが付与される規定はないか、トランスジェンダー等に配慮された更衣室やトイレは整備されているかなどが解消されることで、平等性が担保されたり使いにくさ働きにくさが解消されたりすることがあります。県内事業所の就業規程等に欠格条項はないかをチェックするような調査が実施されること、あらゆる人権課題について、こうした制度や慣習、構造の問題として捉えた上で、特定の属性を有する人が不利や不平等を強いられることのない変革を進めていくことが必要であり、好事例を公表していくことも必要だと考えます。

 このような本がありますので、紹介します。


 ご覧いただき、ありがとうございました。

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