ヒューマンライツ情報ブログ「Mの部屋」43 隣保館て、日本にめっちゃ重要な施設。だから全国展開していこう!

 生活困窮者自立支援の取り組みが始まるずっと前から、日本では「隣保館」たるものが設置され、生活困窮層のさまざまな支援に取り組まれてきました。子ども食堂や学習支援などの取り組みは、何十年も前から被差別部落で取り組まれてきており、現在の生活困窮者自立支援の取り組みは、隣保館での取り組みが大いに反映されています。

 2002年4月以降、この隣保館が展開する事業は、全市的・全国的に展開されていくべきものだと期待されていましたが、時の首長などにより、何十年にわたって培ってきた成果を検証されないまま、廃館となったり、本来の事業目的を見失い、公民館的な機能しか残らなくなったりと、残念な方向へ進む自治体も多く出てきています。

改めて隣保館って何

 全国隣保館連絡協議会さんのホームページに掲載されている内容をもとに、隣保館についてご紹介します。

 隣保館は、「地域社会全体の中で福祉の向上や人権啓発の住民交流の拠点となる開かれたコミュニティーセンターとして、生活上の各種相談事業や人権課題の解決のための各種事業を総合的に行う」ことを目的として設置されてきました。

 日本の隣保館の活動は、19世紀後半にイギリスで誕生したセツルメントと呼ばれる貧困層の居住区などに教職員や自治体職員が移り住み、地域の生活基盤を向上させるための取り組みをもとに、明治後期にスラム地区対策として民間の社会事業家によって設置されたことに始まります。

 被差別部落に隣保館が設置されたのは、米騒動や全国水平社の結成によって部落問題が政府をはじめ広く社会一般から重大な社会問題として認識されて以降のことだとされています。戦前の隣保館は、融和事業として地区住民の感化救済・矯風改善対策事業としての活動を行ない、治安対策として取り組まれてきた面が強くありました。
 戦後、同和地区を対象とした国の特別行政施策は中断されていましたが、1953年度の国の予算に、初めて同和地区に隣保館を建設する経費の補助金が計上され増したた。しかし、隣保館の概念も指導方針も明確にされず、また、運営費の補助もないという状況で、その活動は停滞していました。

 隣保事業の法制化がなされたのは、1958年の社会福祉事業法の改正によってです。第2種社会福祉事業として、「隣保館等の施設を設け、その近隣地域における福祉に欠けた住民を対象として、無料又は、低額な料金でこれを利用させる等、当該住民の生活の改善及び向上を図るための各種の事業を行なうものをいう」と定義されましたが、貧民救済的施設としての性格を強く持ったもので、部落問題を解決するという視点はほとんどありませんでした。

 1959年5月8日、同和問題閣僚懇談会において「同和対策要綱」が了承され、いわゆるモデル地区事業としての隣保館施設の推進や、1960年から同和地区の隣保館への運営費補助制度が実現すると、各地に隣保館の設置が進んでいくようになりました。

隣保館の位置付けって?

 隣保館は、部落差別解消に向けた相談活動の拠点として、大きな役割を果たしてきました。隣保館は、社会福祉法に基づく隣保事業を実施する施設であり、「隣保館設置運営要綱」には「基本事業」として、「地域住民に対し、生活上の相談、人権に関わる相談に応じ適切な助言指導を行う事業。なお、相談に当たっては、地域住民の利便を考慮して、機動的な相談体制を確立し、また、相談の結果、必要があるときには関係行政機関、社会福祉施設等に連絡、紹介を行うほか、その他適切な支援を行うよう努めること」とされています。

 相談者から寄せられた課題の解決に向け、隣保館が生活上の悩みについて、その課題は複合的であることから、相談者からの聞き取りを基に支援方針を検討し、課題の解決に向けて、職員が相談者に寄り添いながら継続的に自立支援の取り組みを実施していく必要があります。

 隣保館が拠点となって取り組まれてきた相談活動は、日本初の「ワンストップの総合相談」であり、生活困窮者自立支援法に基づく各種事業は、隣保館活動のモデルとなっています。相談者をたらい回しにせず、一つの相談窓口で住民等が困りごとを一括で受け止め、寄り添いながら支援するしくみが注目され、具体的な広がりを見せています。

世の中でめちゃ重要な「相談」

 部落差別解消推進法の第4条「相談体制の充実」では、「国は、部落差別に関する相談に的確に応ずるための体制の充実を図るものとする。」「2 地方公共団体は、国との適切な役割分担を踏まえて、その地域の実情に応じ、部落差別に関する相談に的確に応ずるための体制の充実を図るよう努めるものとする。」とされています。相談のゴールは「困りごとの解決」であり、隣保館の役割は「聞く」だけでなく「解決する」ことが設置されている目的でもあり、相談員の増員や相談事業の予算の増額、相談員の資質向上などが「充実」となる面もありますが、何よりも問題や課題を克服するために何が必要であるかの結果を導き出し、解決につなげる施策の展開が求められます。

 相談については、相談した先に何があるのか、どのような結果に結びつくのかなどをわかりやすく示すことが必要です。「話だけを聞いてくれて終わり」では、相談しようという気力や意欲がわいてくるはずもありません。フローチャートなどを使い、「このような場合は、このように解決をした例がある」、また「このような段階をふんでこのような結果に至る」などの流れを提示し、隣保館は何をどこまでやってくれるのか、どのような実績があるのかなどを具体的に示すことによって、相談を抱える人たちが相談に行けば解決してくれるかもしれないなど、相談のきっかけ、相談のスタートラインにたどり着きやすくなるのではないかと考えられます。

 隣保館が地域で果たしてきた役割と培ってきた信頼関係を重視し、めまぐるしく変化する社会情勢の変化と生活困難や差別の実態に対応するため、隣保館職員(相談員)を増員し、その専門性を強化していく必要があります。

困っている人が増えているから、有効な施策を掴み取る

 近年、経済・社会環境の変化により、就労や教育、経済や福祉、住居や家族関係、市民生活における困りごとも多様化の一途を辿っています。多くの相談活動の現場で、「自分が何に困っているのかさえわからない」というかたちなど、複雑な課題を抱えた相談者が相談機関に訪れています。複雑な課題を有する相談者を一括して受け止め、課題を整理し、関係機関などと連携しながら一つひとつの課題をともに解決していく「総合相談」の役割がより重要となります。勇気を振り絞って相談への第一歩を踏み出した相談者が、まずは安心して自身の困難を打ち明けることができる環境づくりと、その背景に潜む差別や人権侵害を明らかにしていく相談活動が求められます。

受け止めた相談を、適切な機関と連携して解決するためのネットワークも重要です。行政機関、福祉関連機関、NPOや当事者団体、課題を乗り越えてきた人々によるピアカウンセリングなど、社会資源を動員し、問題解決に向けたネットワークを構築することが求められます。

 相談活動により築かれたネットワークを活用し、困難の予兆発見とアウトリーチ活動を行うことが重要です。行政機関はもとより、近隣住民や福祉サービス、園や学校などさまざまなネットワークを駆使し、住民に現れる困難の予兆を発見する取り組みを重視した相談活動を展開していく必要もあります。

 相談活動の重要性と求められる機能について、これらを支える現場の相談員の資質向上とその支援策を充実させることが重要です。傾聴、守秘義務、相談記録の作成などの基本的事項とともに、ネットワークの共有、経験交流などにより、相談員の人材育成を継続的に行うしくみづくりを構築していく必要があります。

隣保事業を全国へ拡充

 同時に、こうした取り組みは全市的・全国的に展開される拡がりも求められます。保護者や青年等が隣保館の各種事業を利用したことの評価は極めて高いことが明らかになってきました。公民館が廃止になった今、このような住民や利用者のニーズに応え、多くの利用者が満足でき、かつ困りごとや社会的差別による被害が生じた際、侵害された権利が回復されるような取組の展開は、隣保館だけではなく「地域包括支援センター」をはじめ、「地区市民センター」という住民にとって身近な施設において実施されることが好ましいと考えられます。困りごとを抱えている人々は隣保館の管内だけ存在しているわけではありません。

 子ども食堂や学習支援をはじめ、生活体験事業や、困りごとの総合相談の実施など市全体として隣保事業を展開するような取組は、全国に拡充されていくことが期待されます。

 ぜひ、この本をお読みください。

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