ヒューマンライツ情報ブログ「Mの部屋」9 今や「日本人・健常者・男性・異性愛者・シスジェンダー、非同和地区出身者」こそ、差別を受けている?

 ここ数年、急速にネット上の差別投稿の中で目立つようになってきた問題に、マイノリティに対し人権保障・社会包摂策を講じられることは、マジョリティへの差別であるという主張があります。これまでは逆差別や妬み差別と言われ、マイノリティ居住地の住環境改善や、奨学金制度や優先雇用などの人権保障施策に対して「マイノリティだけ良くなってずるい」といったものが、より深刻で過激な状態となり、マイノリティへのオンラインハラスメント、デモ等への嫌がらせ、社会包摂施策の停止を呼びかけるなど、従来にはない形で登場するようになってきています。

 こうした問題の前提には、マイノリティへの差別は存在しない、マジョリティとマイノリティ間の格差は、マイノリティの努力不足の結果であるなどの思い込みがあるとされています。

 このような考えの根拠として持ち出されるのは、例えば、大臣や知事、社長や部長、自治会長等に「女性」が就任するようになった、「障害」者や外国人等への優先雇用が用意されているなど、マイノリティが恵まれた立場になっている、良き条件を与えられているなどです。そして、「こうしたマイノリティは努力をしてこの地位を手に入れた。努力すればマジョリティと対象な立場になれるのであって、今ある格差は差別ではなく、マイノリティの努力不足である。その努力を放棄し権利ばかりを主張することは問題であるため、それを批判しているだけ」と主張しているわけです。

 つまり、

①「障害」者を優先的に雇用する政策は、非正規で働く健常者の雇用機会が縮小する、奪われることになり、健常者の優先雇用が展開されないという点で、差別である

②女性を優先的に登用する政策は、生まれ持って選べない性によって、努力せずに登用されるのは不公平であり、これは男性への差別である

③今や性的マイノリティの方が、この社会で大切にされ、さまざまな恩恵を受けている

④在日コリアンは、通名制度や特別永住権など、特権を持っている。

⑤同和地区出身者に、解放奨学金制度や就労対策としての優先雇用など、さまざまな施策が展開されてきたが、同和地区出身でない自分たちには、そのような取り組みがなされていないため、これは非出身者への差別である 

などです。

 マイノリティによって、本来あるべき権利やチャンスが奪われたように感じ、実際に喪失していなくても、自身よりもマイノリティや他者が多くのものを持っていると、自分が何かを失ったような感情を抱くマジョリティが増えているということです。このような問題は先進国で共通しておきており、とりわけ若い世代が主張を強めています。

 現実にある格差は、マイノリティの努力不足ではありません。マジョリティ性を有することで努力せずとも得らえる優位性や恩恵があることに、マジョリティは気づきにくく、「特権」について学ぶ機会を奪われ続けています。

 一方で、マジョリティのなかから、マイノリティが誕生しているということにも課題意識をもつ必要があります。この問題をもたらした主要因は「政治」です。

 下のグラフは「国民生活基礎調査」です。

 青色の1990年では、1世帯の所得分布に関して、「300万円代」が最も高く、次いで「400万円代」でした。そこから28年が経過した2018年では、「200万円代」が最も高く、次いで「300万円代」と、全体的に所得分布が「沈み」、中流層がより厳しい層へ引き下げられています。ある人は、この状態を「一億総貧困」と呼んだりしています。

 40歳代や50歳代の人たちの中には派遣労働など非正規雇用で働く人たちがたくさん作られました。いわゆる「就職氷河期世代」です。月々の手取りが20万円もいかない収入で、浮上できるようなチャンスどころか、きっかけもないような状態に置かれた人たちが政治的につくられたわけです。

 子どもの貧困という言葉が誕生して久しいですが、これについても「政治の責任」は重大です。1985年に派遣法が施行し、1999年、2004年の法改正による規制緩和が進められる度に、相対的貧困率は悪化しており、明らかな相関関係が見られます。

 下のグラフは、主要国のアメリカ、ドイツ、イギリス、フランス、韓国などは30年で平均賃金の推移です。

 日本以外の国は上昇し続け、トップのアメリカは2020年で763万円でしたが、日本は30年横ばいで424万円でした。

 ここ20年近く、ほとんど格差が広がっていないと言われています。昔に比べて貧困家庭、子どもの貧困が増えていることは間違いありません。それは、恵まれた人が貧困家庭から搾取しているわけでもありません。国全体が貧しくなり、国全体が縮んでいるという状態です。アメリカやヨーロッパのいくつかの国のような格差が拡大していると言われる国の状況とは違う状況が起きています。

 どういう時に格差が広がるかというと、大きな産業が勃興したり、新しいビジネスが生まれたりして、新しい富がつくり出される時、その富の分配が歪んでいる場合に格差が広がっていくのが典型例です。過去30年間で、I T産業が勃興し膨大な富がGAFAのような一部の企業の経営者や投資家、企業家だけに回ってしまい、格差が広がっている国とは違うということです。日本は、新しい富や産業を作り出すことができなかったので、分配どころか、格差を広げる力が今の日本にはないと言われています。この状態をつくったのは政治です。

 30年間、展開されてきた政治は、

①非正規労働者を増加

②努力しても賃金が上がらない

③消費税は増税

④物価の目まぐるしい上昇

⑤ガソリン価格の高騰

⑥社会保険料の負担は増え、今後も可能性が高い

⑦介護保険料も負担が増える可能性が高い

⑧年金を支払えない若者が増え

⑨年金受給年齢は引き上げられ続ける

など負担ばかりが増す深刻な状況となっています。

 努力しても報われない、将来が見えないような状態に置かれたマジョリティが生産され続けています。

 こうした問題をもたらした政治や政府に批判の視点が向かなければならないにも関わらず、マイノリティへのオンラインを含むハラスメントや差別が引き起こされています。

 このような問題を解消するためには、何が必要なのか。

政治を変えること

経済政策や雇用政策の再構築も必要です。どんな議員を地方や国政に送り出すか、また私たちが社会を作る主体者であるということを学び、積極的に政治参加していくこと、差別解消には経済政策やセーフティネットの拡充などが必要です。

 この内容に関する本がありますので紹介します。


 ご覧いただき、ありがとうございました。

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