ヒューマンライツ情報ブログ「Mの部屋」45 求められる人権施策って何③ 救済って何をどうする?

 差別や人権侵害を解決していく上で「被害救済」は絶対不可欠な施策の一つです。人権侵害を救済する法整備を求める運動が長らく展開されてきていますが、国レベルでは一向に取り組みが進んでいません。

 一方、差別や人権侵害の被害に遭う市民が絶えず出ており、有効な救済策がない中で、泣き寝入りになっていたり、被害回復を被害者自身が担わされる実態が極めて長期間にわたって続いています。

 基本認識として、差別や人権侵害を受けた側は、心が傷つく面がないわけではありませんが、権利が侵害される問題として捉えなければなりません。差別や人権侵害が起きたことによって、被害者や家族がどの権利を侵害されたのか、どんな損失が出たのかを正確に把握し、補償や支援を講じることが必要になります。いじめ問題を通して書いてみたいと思います。

 児童生徒がいじめを受け、保健室登校や不登校に追いやられた場合、当然ながら被害生徒は、いじめを受けることがなければ教室・学校に通えているわけです。いじめを受ける前の状態に戻すための、被害者に負担をかけないさまざまな救済策が必要になります。また、いじめを受けたことによって被害者はもとより、家族も生活のさまざまな面で支障が生じてしまうなど、さまざまな損害を被ってしまいます。

 このブログで、三重県で「差別を解消し、人権が尊重される三重をつくる条例」が施行された意義などを紹介しました。(こちらです)。その中で、

 差別の紛争解決と、県が差別事案に介入することが明文化されたことにより、被害者への負担が軽減されることが期待されます。これまでは差別被害を受けた側が、時間や労力、時には費用をかけてリカバリーさせられてきたという極めて理不尽な状況にあったが、県が介入することを義務化したという点で、被害者に負担をかけない状態をつくることが期待されます。

と評価しました。これも救済の一つだと思います。

 教室が安全であることを学校や市教委だけでは保障できない場合、誰がそれを判断し、誰が実現していくのかが必要かと思います。第三者機関の設置です。

 加害行為に及んだ生徒が教室にいて、いじめ行為について認めず、内面から反省していない場合、被害生徒が教室に戻るのは不可能ななかで、被害生徒が教室に戻ることを最優先した上で、加害者側の教育を受ける権利を保障することを前提とした取り組みが大切だと思います。学校によっては加害者を優先してしまう例があるので、優先順位を間違えてはいけないと思います。加害行為に及ぶことになった生徒が、被害者が安心して教室に戻れるような状態にするのは、とても大切だと思います。

被害者による発信者の特定や訴訟を含む費用負担の理不尽なシステム

 発信者の特定のための開示請求について、1件のIPアドレスを突き止めるのに数万円以上、携帯電話会社に裁判を起こし、発信者を特定するのに数十万円がかかりますが、名誉毀損や侮辱的な投稿をした発信者からとれる費用は20万円程度が相場だとされており、被害者が損をするシステム、経済力のない人たちは名誉や権利の回復が容易でないシステムとなっています。

 損害賠償請求はできても、弁護士費用を全額を裁判所が認めるという点では課題が多いとされています。

 経済力のない人が加害者であった場合、損害賠償責任を支払う義務があっても、支払えない状況となってしまうこともあります。強制執行をしても差し押さえるものがない場合、賠償金を受け取ることが困難になるという課題を残したままです。

 このような欠陥の多いシステムの抜本的変革も、被害者救済の重要な柱になると思います。

加害者へのケアやカウンセリング

 海外では、加害者へのケアやカウンセリングに取り組まれています。家庭環境、生育環境の影響などにより、いじめなどの加害行為に及ぶ状況となったこともあるため、内面から反省していけるようになるためには、抜きにはできないことだと考えています。その上で被害者への謝罪が、理解してくれた・反省が伝わってくるという点で、一つの救済につながると思います。

 被害者家族の場合、子どもが不登校になったことによって仕事に行けず、有休を消化した、無休となり給与が減った、長期化したことで職を失った等々の損害が出たことについて、加害者家族を相手に民事訴訟が起きるかもしれません。

 その場合、前述した内容を重複する部分もありますが、明確にいじめであることが第三者機関により認定されたことを受けて、被害者家族が訴訟する場合の弁護士費用を政府や自治体が負担するという経済的支援も、検討に値すると思います。
 また、自治体が負担した費用は、損害賠償請求により、原告の主張が認められた場合に、全額でなくても判決の結果により、一定の割合で政府や自治体に返還するなどが可能な場合に行うなどはどうでしょうか。費用負担に所得制限を設けるかの課題もあると思います。

 ネットいじめの場合、加害者が特定されにくい場合が考えられます。これも第三者機関でいじめが認定され、ネットいじめの加害者が特定されていない場合、改正されたプロバイダ責任制限法の発信者情報の開示手続きについて、市が裁判手続きなどを代行まではいかずとも、支援することも救済につながると思います。

差別や人権侵害により職を追われた人たちへの救済

 実際にあった差別被害の例です。被差別部落出身で40代の方が働いていた事業所で、その方の上司と日常会話をしていた時、突然、上司から「◯◯(地名)って同和なんやろ?」といった発言が相次いでありました。被差別部落出身の方は、反論もせず、正確にはこの時は反論することができずにいました。3年ほど働き、さあこれからという時に起きた出来事であったので、この職場で働きにくくなり、会社を辞めようと思いはじめます。しかし、このままではいけないと思い、会社の社長にこの件を相談しにいきました。一連の話を聞いた社長は、「まだ、そんな『エタ』のことを未だに言う人がいるのか」と発言しました。相談に行った先で、ましてや会社の最高責任者から、「エタ」と言う発言が出たことで、この人は会社を辞めることを決意しました。形式としては、この段階でで「自主退職扱い」です。

 職場を自主退職した場合、例えば「失業保険」を受給できるのは数ヶ月後になります。差別発言を目の前で聞かされ、傷つけられたことにより、その職場で働くことができなくなったため、自ら職を探す必要も出てきます。これは理不尽です。この人は、たちまち収入が途絶えることになるため、いち早く収入が欲しいこと、新しい職場を探すことが必要になります。この被害者にどのような救済ができるでしょうか。ちなみに、会社の社長や上司に謝ってもらうことについては自分でできると言われています。

 まずは、会社の社長として今回の発言の重大性や差別性を認識し、社として今後、同様の問題が起きないようにするための再発防止としてはもちろんのこと、積極的に差別や人権侵害を解消するために取り組んでいく必要があります。自治体や運動体などが被害者に受けた被害の内容を丁寧に聞き取り、次に社長や上司にもヒアリングを行い、発言した事実関係の擦り合わせを行います。社長や上司など発言した側が被害者の供述を認めることになるとよいですが、まれに開き直る人が出てくることもあります。

 次に、労働局を動かすことです。このような事象について事業所に対し、再発防止につながる指導をするなどの役割があります。

 次に「失業給付金(在職中に12カ月以上、雇用保険に加入して保険料を納めていた人が受け取れるお金。 失業時給付の1つである「基本手当」を指す。 失業保険が給付される理由は、転職や再就職を促すため。 突然の失業を余儀なくされたとしても生活に困窮することなく、安心して就職活動できるように支給される)」が必要な経済状況の場合、「突然の失業」の状態が証明されないといけなくなります。

 「失業者」とは、働く意志や能力があるのに就職先が見つからない人を指します。病気やケガで療養中の人や出産や育児のために退職した人など、しばらく働けない状態にある人は退職後すぐには給付を受けられません。再就職をサポートするためのものなので、受給を申請する時点で就職活動をしている必要があります。

 失業給付金は、申請から支給が開始されるまでの待期する期間が設けられています。その期間は7日間となっています。自己都合による退職の場合は、待期期間が終わった翌日から、さらに2カ月間の給付制限期間があります。つまり、自己都合で退職した人に給付が開始されるまでの期間は2カ月間と7日になるということです。

 できるだけ早く手続きができ、失業給付金が受け取れる状態になるよう、会社側に対し労働局や県が「助言」するなどして、差別被害さえなければ働き続けていたはずの元社員が、今できる可能な限りの状態になるよう、会社側の責任として手続きをすることが必要になります。

 もう一つは、仕事の斡旋です。やはり年齢が若い場合とそれなりに年齢を重ねた人たちと比べると、若い方が就職先が見つけられやすいところがあります。差別がなければ働き続けることができたわけで、本人が辞めたいという状況になった以上、新しい仕事先を斡旋する必要があります。仕事の斡旋はハローワークになるわけですが、これでは自ら探す必要が出てくるため、救済にはなりません。辞めざるを得ない状況をつくった事業者側が、元社員が新しく働ける事業所が見つかるようにすることが必要です。これは労働局や自治体がやることではないため、事業所に対し、仕事の斡旋までする必要があることを指導し、実施させていくことが必要だと思います。

 条例の実効性を担保するためには、それなりに具体的な救済内容が明文化されること、何をどこまで救済していけるかについて、柔軟性があり、かつ実効性のあるものが必要です。

 人権相談について、このような本がありますので、紹介します。

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