「部落問題を考える集い」なるもの
私の地元では、「部落問題を考える小学生(中学生)の集い」なるものが開催されています。20数校の小学校から立候補を中心に、担任が参加させたい生徒ら複数人を選び、10月や11月ごろに、全ての学校の代表らが集い、各学校で進めてきた部落問題学習を通して実践してきたことを交流し合い、個やクラス、学年の質を高めていくことなどを願いに行われています。
市町村合併が行われてから18年が経過しているなかで、下火になることなく、コロナ禍では全学校が集うことはできない中でも、それぞれの校内で開催されてきています。
この集いがあることで、全ての学校が代表を選任し、自分たちの学びや気づき、実践などについて発表・報告することになっていることから、全ての学校で部落問題について学習することになります。課題としては、学校によりますが、学力の高い、安定した発言をするような生徒を選任してくることです。これ自体が課題ではなく、本来に必要な生徒が参加できるような実践が校内で進められていないということです。
交流する機会では、自校では実践していない他校の取り組みや、部落問題に関する他校の生徒の捉え方や解決への思いなどを聞くことで、刺激を生み出したり、取り組もうとする気持ちを後押ししてくれることがあります。初めて部落にルーツのある子に出会う生徒がいたり、ルーツのある子の思いや願い、不安に触れることで、部落問題が「身近」な問題として捉えられるなども意義の一つだと言えます。
学校や担任によって変わるのは、学習内容の質や量です。とりわけ「質」はとても重要で、自分に引き寄せ、自分とのつながりを見出し、主体的に解決していこうとする意欲や実践を高めていくこと、一人ではなく豊かな関係性を築いてきた仲間と共に取り組んできたことなどを学び合うことに意義があります。
「部落問題『を』学ぶ」ことを目的にしているのではなく、「部落問題『で』学ぶ」ことを重視しています。歴史を学び、地区にルーツのある人々の体験や思いを聞くことも行われていますが、部落問題がいかに自分や自分たちの現状や課題とつながりがあるかを見出していくことが、とても大切です。
常に「自分(たち)」とのつながりを意識する部落問題学習
高校や大学、就職先で部落にルーツがあることを意識させられたり、隠したりせざるを得ない状況に置かれた人たちがいて、部落問題や自身の理解者はどこかと探し続けています。すぐにでもカミングアウトできれば良いのですが、そこによって差別的扱いを受けたり、人間関係にマイナスの変化が生じたり、軽率な扱いを受けたりするなど、カムアウトしなければ良かったと思う経験はしたくないものです。
こうしたことと同様に、部落にルーツがなくても「家族のこと」「友人関係のこと」「自分自身のこと」などで悩んでいたり困っていることを知ってほしくても、それを知られることで揶揄されることや人間関係にマイナスの変化が生じてしまうのではないかと不安に感じると、誰にも言えなくなってしまいます。何か、自分にとって大切なことなのに隠したり、誤魔化したりしてしまう。でも、部落問題学習を通して、自分のルーツを語る姿や思いなどに触れ、自分はどうありたいか、どう生きていきたいか、どんな友だちが欲しいのか、クラスはどうあってほしいのかを考え、あるべき方向というか、理想の実現に向けて、個や集団で取り組むことにつながっていく、これだけではありませんが、こうしたことを狙いにして、すべての学校で部落問題学習が展開されています。
集いに参加する中で、グループに分かれる分散会において、部落にルーツのある生徒と初めて出会い、また出会いだけでなく、同じ世代の子たちから部落差別を受けることへの不安な思いを直接聞くこと、差別からの解放を願う思いに直接触れることで、リアリティがより育まれ、さらに差別の解消に取り組むスイッチがもう一段階入るような生徒も少なくありません。
市の教育の柱「人権・学力・キャリア」
市教委は、3つの柱をベースにした教育活動を学校に求めています。「キャリア教育」、「学力」、そして「人権」です。確かな基礎学力を獲得・向上し、明確なキャリアビジョンを描くことができ、人権が尊重されるクラスや学年、学校、地域づくりを目指すことを大切にされています。
前述したように、「人権」については、生徒たちが家庭や友人関係、自分に関わることについて悩み・困りごとを抱えさせられ続けている状態では、物事への集中度合いに影響が出て、困りごとなどに時間や労力を取られてしまうため、本来、一人ひとりが持っている力を発揮できなくなっています。明確に解決できなくても、その困りごとや悩み事を個人戦にはさせず、大切な仲間と共有することができ、心身の支えとなってくれる存在、依存できる先が増えることが、エンパワメントにもつながっていくということを大切にした教育活動が展開されています。
人権に取り組むことを通して学力を向上させる、学力の向上が確かな進路を保障することにつながる、このことを市教育委員会や学校は体現してきています。
ご覧いただき、ありがとうございました。