ヒューマンライツ情報ブログ「Mの部屋」50 人権意識調査はこうでなくちゃ?

 市民を対象に実施される人権意識調査について、社会学などを専攻してきたわけではありませんが、このような視点で実施されるべきではないかということや、調査項目への提案などを書いてみたいと思います。

人権意識調査は、人権課題別に実施されるべき

 自治体で実施されている人権意識調査のほとんどは、個別的な人権課題のすべてを網羅するような項目設計になっています。部落問題、「障害」者問題、外国人問題、女性、子ども、高齢者、性的マイノリティ、アイヌ民族、貧困、災害などのすべてを網羅しています。

 本来は、一つひとつの人権課題に関する人権意識調査が実施され、個別の人権課題に関する人権意識を正確に把握できるようになるのではと思っています。しかし、現状は、人権課題網羅型なので、各人権課題について設計できる項目は、よくて2〜3問程度で、すべて中途半端になってしまいます。

 あるいは、意識調査を始めた当時は、部落問題に関する項目が中心となっていて、人権課題がどんどん増えてくることにより、調査をすれば課題がまだまだ残されている項目を削られ、調査されなくなり、課題が課題のまま残されてしまうという問題も出てきています。

 こうした調査のあり方が、実は差別意識を正確に把握することができず、差別解消に有効な施策が展開されなくなり、結果「思いやりや優しさ」が強調される啓発や、意識を変えることばかりに執着し、差別意識が生み出される制度や慣習、構造を変革する施策が展開されず、差別が持続してきたという課題があると思っています。

市民が利害を感じ取れるような項目が必要

 コロナ禍で発生している感染者等への差別で明らかなように、市民は「利害」を感じ取った時、差別が表面化してきています。もちろん、差別の起こり方はこれだけではありません。人権意識調査は、「利害」を感じ取れる内容でないと、市民に根差す差別は調査で明らかになってきません。差別意識という課題を洗い出し、解消のための有効な施策を展開することを基本にした項目を設計しなければならないため、「利害」を感じ取ることができる項目設計が必要だと思っています。

「人権が尊重されるようになってきたと思いますか」

「こういうことが起きた場合、どう思いますか」

「どのような啓発手法がよいと思いますか。よかったですか」

みたいなことを聞いて、一体、どんな課題が明らかになるのか、何が分かるのか、それがどんな施策につながるのかは、意味不明です。

取り組み可能なこと、施策の展開を見越した項目の設計が必要

 その項目を設計した後にどのような取組を展開するのかという施策の展開へとつなげることを念頭においたものでないと調査は意味をなさないと思っています。ちょこちょこあるのが、「差別をなくすためにどんな取り組みが必要だと思いますか」みたいな質問は、かなり痛いです。例えば、回答の割合が高い項目に予算をつけるわけでもない。市民に「取り組み手法ベスト10」みたいなことを聞いても、本質に届かないと意味がないため、差別の解消には有効でないということです。

 そもそも、差別は制度や慣習、構造の問題であるため、意識を変えることをめざすというよりも構造やしくみを変えることが何より重要です。調査することが目的ではなく、調査後にどのような差別解消に有効な施策を展開するかを見越した項目設計でなければなりません。

差別の捉え方の変化にどう対応するか

 この間、「差別」を「マイノリティにより本来あったはずの機会等が奪われているマジョリティが権利を侵害されている問題」と受け止める「マジョリティ差別論」が登場してきているなかで、「差別」の捉え方について県がイメージするものとは変容してきている側面があると思っています。

こんな項目、どうでしょう?

 最低限、必要なのは、

1)子どもが結婚したいと言っている相手がマイノリティであった場合、親である立場から結婚に対してどのような態度を取るのか

2)身内に縁談話が出てきた際、相手方がマイノリティであるかどうかの差別身元調査の必要性

3)マイノリティへの差別や偏見を見聞きした経験

4)物件の賃貸等に関するマイノリティ居住区等への忌避、入居拒否

5)差別の現状認識と展望、人権侵害被害の実態

などです。こうした質問に対して、「マイノリティが不快に思うのでやめた方が良い」などの意見が出てきます。私としては、マイノリティによって不快な内容であることを認識した上で、それでも必要だと思っています。前述したように、差別は「利害」を感じ取る中から生じる側面があるため、調査対象者に「利害」を感じ取らせる質問でないと、差別を洗い出すことができません。

 また、以下の質問を「そう思う」「どちらかといえばそう思う」「どちらかと言えばそう思わない」「そう思わない」の4段階で回答を設けて実施する場合のものを想定しています。

 「子どもの人権」に関して、

「多様性だからといって、学校に通う子どもが髪の毛を染めたり、ピアスを開けたりするのはよくない」

とするのが良いのでは思います。

 次に、「女性の人権」に関しては、

「議員や自治会長などの役職に女性が少ないのは、女性側にも責任がある」

「女性専用車両やレディースデイなどは、男性への逆差別だと思う」

とした方が、現代的ではないかと思います。

 「障害」者問題では、

「障害者が公共交通機関を利用する時は、事業者のルールに従い、事前予約などのルールを守る必要がある」「特別支援学校や支援学級は、健常児はもとより、『障害』児のためにも必要であると思う」

 外国人では、

「外国人は日本で権利を主張するのなら、元いた国に帰ったほうがよいように思う」

 感染症問題では、

「健康面ではなく、自分の意思で新型コロナウイルス感染症のワクチンを接種しない人は、非難されても仕方がない」

「ワクチンパスポートは感染対策の上で必要であるため、差別にはあたらない」

 性の多様性条例が施行され、アウティングが禁止された中で、

「本人の許可を得なくても、家族や信頼できる人になら他人の秘密(差別を受ける恐れがあるもの)を内緒で伝えても本人に伝わらなければ問題がない」

などです。差別の解消に有効なものへとつながる調査であってほしいです。

 ご覧いただき、ありがとうございました。

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