ヒューマンライツ情報ブログ「Mの部屋」12(前編) 「わかりにくさ」がもたらす重大な被害

 「無意識の偏見(アンコンシャスバイアス)」について触れた回で、「差別をしている人」とはどんな人かと聞かれたら、「酷い差別意識をもった悪意のある人がする問題」ではなく、「多くの悪意のない人がする問題である」と紹介しました。

 では、アンコンシャスバイアスが差別に派生する際、最も多い差別のかたちは、「無意識の日常的差別」と言ったり「マイクロアグレッション」と呼ばれる問題だと思います。

 「無意識の日常的差別(マイクロアグレッション)」とは、「発言をした側には、差別する意図、人を傷つけようとする思考がないのですが、発言等を受けた側にとっては、侮辱されている、下に見られている、否定されている、疎外感を持たされた、ステレオタイプで見られた、等々の被害を日常的に、あるいは短いスパンで連続的に被害を受け、やる気や気力、意欲などを奪われるなど、被害者の人生のさまざまな場面で悪影響をもたらす問題のことです。

 マイクロという言葉の意味は「些細な」「小さな」ですが、それは問題の大小を意味するものではなく、した側・された側ともに、今、差別的な言動に及んだ、差別的な言動・扱いを受けたということを自覚・認識しにくいという意味があります。時には「自分の被害意識が強いのかも」とベクトルが自分に向いてしまうこともあります。

 露骨な差別発言のようなわかりやすさがないという側面もあります。見逃してしまうようなわかりにくさが、極めて重大な被害をもたらしかねない差別です。つまり、

「露骨な偏見に基づき、明確な悪意や差別的な意図を持って、また故意に、マイノリティに対し、侮蔑的・屈辱的・否定的な内容の言動を向けるなどの取り扱いを行うことだけが、差別ではない」

ということです。例を挙げてみます。

①ブラジルにルーツのあるからといって皆がサッカーをしているわけはないのに、ルーツのある人に「サッカーしてみて」という

②日本生まれ・日本育ちの海外にルーツのある人に「日本語が上手」「箸の持ち方が上手い」という

③マイノリティに対し同情する、「かわいそう」だという 

④「同じ人間だとわかった・思った」と言う

⑤マイノリティに差別被害のことや、マイノリティ性を意識させられることについて「気にしすぎ」だという

⑥マイノリティ性を知った相手の態度の変化(マジョリティには取らない態度)(驚く、無視する、よそよそしくなる、気まずい雰囲気になるなど)

⑦男女がいれば、男性ばかりに話しかけたり、男性が管理職だと思い込む言動

⑧異性愛、既婚者、子どもがいることを前提とする接触・会話

⑨家族と生活し、両親健在であることを前提とする接触・会話

などです。マジョリティとマイノリティの力関係のなかで生じる問題です。

 次に、部落問題を中心に、私が経験した無意識の日常的差別(マイクロアグレッション)だと思うものを紹介します。すべてがマイクロアグレッションに該当するとは限りませんが、この不確定さも、この差別の特徴ではないかと思います。

①被差別部落にルーツがある自分のような存在がいない前提として扱われる。

②「部落差別はない、昔のことだ」と言われる。

③「被差別部落は存在していない」と言われる。

④目の前で「部落問題学習や研修が面倒」という言動を聞かされる。

⑤「部落の人っぽくない」と言われる。

⑦会話をしている相手に出身地を聞かれ、地名を答えた際の相手の反応(おどろいた表情、きまずい雰囲気、会話が止まる、以降、話をしてもらえない、急にやさしくなる等)

⑦「当事者は気にしすぎ」「もっと大きな視点をもって」と被害や不安を軽視される。

⑧「差別はいけないと思うが、自分には関係ない」と言われる。

⑨「差別を受けて・される側でかわいそう」という見下し、「してあげる感」など支援の対象として扱われる。

⑩「差別のことを教えなければいい・そうすればなくなる」と言われる。

⑪「過去の運動や学習内容は間違い」と当時の厳しい状況を何とかしようと確立してきたことに関し、当然間違いがあっただろうが、そのことだけを強調してくる。

⑫「同じ話ばかりで現状は何も変わっていない」と言われる。

⑬どこにルーツがあろうが気にしない・関係ない(差別をしないという意味合いで使われることが多いが、興味がない、関心がないというメッセージ)と言われる。

⑭被差別の側に責任を求める言動(いつまで続くのか、どうすればなくなるのか被差別の側に聞いてくる)

⑮「話がうまくない・何を言いたいのかよくわからない」と講師を評価する。

⑯運動や仕事に関して「真面目やな」「えらいな」と言われる。

⑰同郷の人・同じマイノリティ属性を有するが問題を起こすと「きちんとさせないと。どうなっているのか」と言われたりする。

⑱マイノリティに語らすことを前提とする言動

・自分はルーツがないので、被差別の側が体験談等を語ってくれないと何を考えどう行動すればいいかわからないという責任の押し付け。

・講演会や研修会、当日の授業までに主催者や学校などが何もせず、マイノリティまかせの状況

・部落差別の現状、同対事業などのことを当然のようにマイノリティに聞いてくる。

・当事者に語らせることを当然という前提での「生の声を聞きたい」

19 研修や講演会で部落問題を扱うと参加者が減ると面と向かって言われる

20 部落問題は過去に何度も取り組んできたため、別のテーマをするべきと言われる

21 部落問題よりも優先すべき重要な問題があると言われる

22 「差別を受けないようにするためにも引っ越しを検討しては?」と言われる 等々

 後編では、無意識の日常的差別がもたらす被害、対応のしにくさ、どう対応するかなどについて紹介します。

 ぜひこの本をお買い求めください。


 ご覧いただき、ありがとうございました。

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