ヒューマンライツ情報ブログ「Mの部屋」65 マイノリティの体験から明らかになる部落差別の現実〜アンケートやヒアリングから〜①

 私の地元である三重県伊賀市では、5年に1度、同和地区住民を対象にした生活実態調査を実施しています。市全体と地区との年齢比率、1年間の世帯収入、生活保護受給比率、転入出などを比較したり、就労状況、子育てに関する悩み、年金受給状況、被差別体験などを聞き取り方式で実施してきました。

 2021年度は、これまでの調査からテイストを変えて、市内の隣保館や教育集会所を利用している高校生や青年、隣保館等を利用している保育園児や小中学生、高校生の保護者を対象とした、利用ニーズ調査が実施されました。調査対象は同和地区に在住している人に限らないかたちとなっています。

 調査の方法、項目の設計、分析は関西大学社会学部教授の内田龍史さんに有識者として、調査方法にはじまり、項目の設計や分析などに関わって、たくさんの的確なアドバイスをいただき、丁寧でわかりやすい分析もいただくなど、大変お世話になりました。

 個人情報保護の関係もクリアすることができているように、伊賀市で調査が実施できるということは、他の自治体でも実施可能ということです。ぜひ、参考にしてください。

まずは調査の概要から

1.調査の目的

 伊賀市における部落差別をはじめとするあらゆる差別の撤廃に関する条例及び部落差別の解消の推進に関する法律を踏まえ、推進法第4条の「相談体制の充実」の具現化に向け、隣保館等で実施している相談事業を充実させるためのニーズ等の調査を実施し、第4次伊賀市同和施策(部落差別解消)推進計画を策定するための基礎資料とすること、推進法の附帯決議に留意しつつ、推進法第6条の「部落差別の実態にかかる調査」の具現化のために、部落差別の実態を明らかにし、推進法第3条の「地方公共団体の責務」を踏まえ、同和問題(部落問題)の早期解決を図ることを目的に調査が行われました。

2.調査の対象

 調査は、市内の隣保館、教育集会所、児童館を利用する方々を対象にニーズ等調査を実施し、同意を得られた人からヒアリング調査を実施。

3.調査の方法

①隣保館、教育集会所、児童館を利用する児童生徒の保護者及び、高校生と青年を対象としたニーズ調査は、各隣保館から対象者へ配布・回収、あるいは、学校・保育所(園)から対象者へ配布・回収する方法で実施。

②ヒアリングは、ニーズ等調査の回答用紙に、ヒアリングを受けることについて可能であると意思表示をいただいた方に、個別面談方式で隣保館職員が中心となって実施。

4.調査の期日

①ニーズ調査は、2021(令和3)年12月から配布をはじめ、2022(令和4)年1月中に回収が完了している。

②ヒアリング調査は、回収ができて同意のあった人から順にヒアリングを実施し、3月18日にかけて行った。

5.回収の状況

 隣保館等の施設を利用する児童・生徒の保護者(2人、ひとり親等の場合は1人)と、隣保館等の施設を利用する高校生・青年にニーズ等調査票を配布。(高校生には、保護者の同意を得ています。)配布総数418、うち回収数265。(回収率63.4%)回答をいただいたなかで、ヒアリングへの協力者は88人。

ヒアリングで明らかになった被差別の実態

 隣保館職員をはじめ、市職員がヒアリングに応じてくれた人たちに被差別体験などを実施した結果、さまざまな被害が明らかになってきました。ヒアリングに応じてくれた人も同和地区住民の一部であり、ニーズ調査の対象者は同和地区住民のすべてではないので、そのことを抑えておきたいと思います。今回は、マイクロアグレッションを中心に事例の一部を紹介します。

①小学校5年生の時の神社の祭りの時、住所を聞かれ友だちが「〇〇です」「〇〇です」と答えていた時、普通に反応していたが、自分が「【地区名】です」と答えると、明らかに態度を変え、去っていった。(20代)

②高校生の時、当時付き合っていた相手の親の実家が〇〇町にあったので遊びにいった時、おばあちゃんが出てきて「どこから来たんや?」と聞かれたので【地区名】って言ったら「だめっ」て言われた。それから自分の住んでいる場所を言いにくい。(20代)

③仕事をし始めた時、仲良くなったお客さんに、どこに住んでいるか聞かれ、「〇〇」と答えた。すると〇〇のどこか聞かれたので、【地区名】と答えると、すこし対応が止まった。その時から、そのお客さんは私に避けるようになり、全く話さなくなった。(30代)

④高校1年生の初め頃、同級生からどこに住んでいるのか聞かれた。【地区名】と答えると、「【地区名】って差別を受ける所やろ。なんでそんな所に住んでいるのか。【地区名】って変な人が住んでるやん。治安も悪し所やん」と言われた。(20代)

⑤3年ほど前、友だちの兄から「どこに住んでいるの」と聞かれ、またかと思い【地区名】と答えた。その人は、「なぜガラの悪い【地区名】に住んでいるのか」「税金を払わなくてもいいんやろ」と聞いてきた。(20代)

⑥高校生の頃、訪問ヘルパーの研修で事業所の職員と車の中で会話をしているとき、「〇〇さんが【地区名】っていうのを私はわかるけど、利用者さんには伏せといてな」と言われ「そのつもりです」と答えた。とても嫌な気分だったが、いい人で自分のことを心配して言ってんやな、と思っていた。実際に多くの利用者に「どこに住んでんの」と聞かれ、とても嫌だった。(20代)

⑦高校に入学してすぐ、友人と一緒にいたとき「お前ら部落の子やろ」と上級生から言われた。(20代)

⑧今の職場は人権研修をよくしている。月に数回くらい、ビデオを観て感想を書くという研修をしている。その際、「何やこれ」「何でこんなんやらなあかんの」「何で勉強しやなあかんの」「まだ部落とかあんの」という人がいる。「ここにいますよ」と心の中で言いながら「そっすね」と合わせている。ただ、そういうことが嫌だったので、部長には自分が出身であることを伝えると「そうか。(研修)受けやんとこか」と言われた。そういうことやないやろ、と思った。(20代)

⑨昨年、同じ会社の人に、自分が差別をなくす活動をしていることを話すと、「そんな活動をする人がいるから部落差別はなくならない」「自分は部落には興味もないし、知らない方が差別はなくなる。正味もうないんやろ」と言われた。(20代)

 このように20代においても、ストレートな差別やマイクロアグレッションを受けているという明確な被害が明らかになっています。特別措置法が2002年3月に失効して以降、何故か国も自治体も生活実態調査を実施しなくなりました。その間、伊賀市では調査が続けられてきた中で、部落差別が被差別当事者に襲いかかり続けている実態が明らかになってきており、自治体がそうした実情を把握しようとしない態度は、加害性すら感じてしまうのは私だけでしょうか。実態を把握しない、相談もあがってこない、だから救済にもつながらない、自分の力で侵害された権利等を回復しないといけないという極めて理不尽なことを政府や行政により押し付けられ続けている側面は間違いなくあります。出身地を聞かれ、「地名」を答えるだけで差別被害に遭遇させられる、「寝ていてくれれば被害は生まれない」のに、差別的に起きている。だから、差別しないための教育が必要であるわけです。

改めてマイクロアグレッションを

 「マイクロアグレッション」とは、日常的に行われる言動の中などに、意図の有無にかかわらず、軽蔑、敵意、否定、侮辱、疎外感などをマイノリティに向けることであり、結果として被害者に精神面や生活面に多大な悪影響を与える重大な問題をさします。部落問題では、被差別部落にルーツのある人たちに、これらを向けるということです。以前、2回にわたって紹介した内容について、前編後編です。

 マイクロアグレッションを3つの分類で紹介します。

①マイクロインサルト:多くの場合、無意識で行われ、相手に対して無礼で気遣いのないコミュニケーション、出自やルーツをはじめ、文化的な価値を貶めるものが該当します。

②マイクロアサルト:多くの場合、意識的に行われ、明らかな軽蔑を有し、特定個人に狙いを定め、暴力的・侮辱的な言動を向けたり、攻撃的あるいは攻撃が向けられるような環境をつくる、蔑称を使ったり、避けたりするような差別目的がほぼ明白である行為が該当します。

③マイクロインバリデーション:被差別部落にルーツのある人たちの心理状態や考え方、感情、経験などを排除したり、否定したり、無化するような行為と理解しています。「部落差別は存在しない」というような、部落問題を解消するための施策、教育や啓発などをないがしろにする、「寝た子を起こすな」などの言動が該当します。

差別(マイクロアグレッションを含む)がもたらす被害者への影響

 差別は「心が傷つく」「気分を害される」といったものよりも、さらに深刻な被害をもたらすことが海外の研究で明らかになっています。例えば、

うつ病の発症:同僚、地域等からの孤立、疲労感を有し消耗する、起床しにくくなる

睡眠障害:安眠や入眠を困難になる

被害意識等:他者の意図などを警戒し、疑い、不信感を抱き続ける

自信喪失:自身の能力、判断、意思決定等ができなくなる、疑問を抱き続ける

無力感:何もできなくなる、何をするにも、意欲がでなくなる

 これらに限らず、さまざまな被害が及び、被差別当事者は、人生そのものに被害を受けるものであることを認識し、解消しなければならない重大な問題として、部落差別の解消に有効な施策を展開していく必要があります。「引き続き教育や啓発を進めていきます」で起きている差別被害であるため、こうした差別が維持され解消されず、マイノリティに被害をもたらし続ける社会の構造そのものを変える具体的なしくみや政策が必要になります。

 次回は、結婚差別等の事例について紹介していきます。ご覧いただき、ありがとうございました。

3件のコメント

  1. ヒューリアさんの1年生対象のアンケートは、21日の水曜日の本校の人権講演会の後、講演会の振り返りとともに応用デザイン科、英語コミュニケーション科各1クラスで実施します。英コミの7割以上が外国にルーツを持つ子たちなので、担任がフォローしながらやってくれるとは思うのですが、多文化共生や外国人差別に軸足が置かれているので、部落についての学習はできていません。若い教員が多く、教員自身が年のいった自分も含め、部落学習について不十分であるのを校長も憂いています。今年の教職員研修では全定合同でLGBTについての講演会をしました。講師の先生方や労務員さん等も含め、参加率も高く、皆さん真面目に取り組んでくれます。教職員向けフィールドワークで津市の東橋内中学エリアの公民館訪問を2年越しで考えていました。先方の先生にもずっとOKをもらっているのですが、コロナやらの諸事情でまだ実施できていません。先生方のアンケートでも部落学習についてもっと知りたいというものが複数あり、今後はそうした研修会も企画したいと校長共々考えています。マイクロアグレッションについては昨年の主担当の須貝先生が還流学習として校内教職員研修で話してくれたので、私も知りました。今回の記事ではそのマイクロアグレッションの分類についてもわかり、知らないことばかりだと恥ずかしくなります。ICTでも何でもわからないことは恥ずかしがらず聴くというのが私なので、謙虚な気持ちで学びたいと思っています。「Mの部屋」の記事など校内の人権サークルの勉強会で使用させていただいてよろしいでしょうか。今後ともいろいろ教えて下さい!長々とすみません。このブログとご縁ができたことをとてもうれしく思っています。ありがとうございます❣️

    1. いつもありがとうございます。
      生徒アンケートの件、お世話になります。
      本ブログの内容、たくさんの方々に読んでいただければと思いますので、ご活用いただけること、大変ありがたいです。

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