ヒューマンライツ情報ブログ「Mの部屋」76 アニメ「ワンピース」を人権・総合学習で活用する(ネタバレ注意!いつもより長いです)

 人権のことを「おもしろく」学び、差別問題や人権問題の本質にたどりつくためのアプローチや、自分が抱える困り事や悩み事などを誰かに打ち明けられる安心できる・信頼できる関係性をつくるためのしかけ、暮らしの事実でつながる豊かな関係づくりのための一人ひとりのバックグラウンドを捉える大切さ、差別や人権の歴史、迫害や侵略の歴史、(性の)多様性、外国人差別や女性差別、部落差別、児童虐待などの現代的課題と自身とのつながり、反差別の生き方など、工夫すれば、興味関心の高いものからアプローチできるものがたくさんあります。今回は、アニメ「ワンピース」から人権のことを考えていこう書いてみました。ちなみに、ワンピースでの「女性の描かれ方」「性の多様性の描かれ方」などについては疑問点や問題点があることは、先におさえておきたいです。

 イラストを書いてみました。

人種差別、アパルトヘイト、ヘイトクライム=魚人族、人魚族

 シャボンディ諸島で、魚人族のハチは、捕まった仲間の人魚族のケイミーを助けるために、麦わらの一味とシャボンディ諸島に向かいます。人身売買のオークションの場に行ったハチを見た会場にいた人々は「魚人だ。気持ち悪い」など、あからさまに侮蔑的な言葉を投げかけます。ナミは「ロビンが言ってた。この島では魚人族と人魚族が差別を受けるって」と説明します。これまでも、魚人族のフィッシャータイガーや、アーロンなどの回想の中でも、奴隷制のことや迫害を受けてきたことが描かれています。

 ネガティブな面だけではありません。主人公ルフィは、魚人島・リュウグウ王国へクーデターを起こした「新魚人海賊団」船長「ホーディ」との戦いで怪我を負い、輸血を必要とする状態になります。その時、名乗り出たのは魚人のジンベイです。フィッシャータイガーは人間から受けた、凄まじい暴力などで人間を憎んでいました。それ故、怪我を負ったのですが、輸血を拒み、命を落としました。

「傷つけても、傷つけられても流れる赤い血。とても道とは言えぬほど、か細く狭いその管こそ、恐れ合う偏見を、血を血で洗う戦いを、かくもた易くすり抜けて、絵空に描く幻想よりも確かに見えるタイヨウへと続く道」

という解説とともに、これまでの差別と迫害の歴史を無かったことにするのではなく、その歴史性を踏まえた上で、新たな関係、新たな時代に突入していこうというメッセージが込められています。

人身売買、奴隷制=魚人族、人魚族、ボアハンコック三姉妹

 ボア・ハンコックは幼き頃、しまいらとともに誘拐され、天竜人の奴隷にさせられてしまいます。その際に、三姉妹全員が背中に天竜人の奴隷の証である焼き印を入れられました。奴隷としての生活のことを語るシーンでは、その耐え難かった当時の状況を思い出し、姉妹が発狂するシーンも描かれ、「毎日死ぬことを考えていた」と話しています。こうした経験から、女ヶ島は「男子禁制」の女性だけが住む島となりました。奴隷制の歴史、迫害の歴史を学ぶこと、ここでは「男子禁制」ですが、今も社会に残る相撲や宗教的慣習、神事や祭りなどに残る「女人禁制」とつなげて考えてみるのはどうでしょうか。そして、女性の人権をめぐる歴史、ジェンダーの歴史の学びに発展させていくこともできます。

 このようなハンコックの体験が、国民らの前で女王として振る舞い、一切の弱さや弱みを見せない姿として描かれているのではと想像できます。隠しておかねばならない、知られたくない過去がある、知られれば馬鹿にされたり、変に思われるのではないかという「弱み」となるものがバックグラウンドにある。でも、本当は知ってほしいことなのかもしれない。そのことをも引き受けてくれる「安心」の場や人を探しているかもしれない、そんな自分と重ねて考えられるようなアプローチはどうでしょうか。

冤罪、風習や慣習=「うそつき」ノーランド

 モンブラン・ノーランドという人物は、部下や国の人々からは信頼を得ています。命を懸けて真実を語る姿、疫病に冒されていたジャヤを命がけで救おうとする姿などが描かれています。

 ノーランドはノースブルーで有名な「うそつきノーランド」のモデルとなった人物です。「うそつきノーランド」とは、ノースブルーでは知らないものがいないとされている有名な絵本で、サンジがそのことを紹介をしています。絵本の内容はノーランドがジャヤで黄金を見た内容が描かれていますが、事実が捻じ曲げられており、実際のこととは異なっています。ノーランドは実際に黄金卿を見ていますが、それは逸話であると思われていました。

 ノーランドはかつて存在した人物であり、その子孫であるモンブラン・クリケットが現在のストーリーに登場します。モンブラン一族は400年の間、「うそつきの一族」として虐げられる存在でした。クリケットもその被害を受けていましたが、「ノーランドの黄金郷がある」という言葉の真偽を確かめるために海賊の道を選びます。

 ノーランドは、ルブニール王国へと帰還し、シャンドラのこと、黄金卿があったことを報告します。王は欲が強く、今度は自分も冒険についていくと言います。最初は2000人近くの兵と旅立ちましたが、100人近くにまで減ってしまいます。王がノーランドの仲間である冒険に慣れた船員ではなく、航海に慣れていない王直属の兵士を連れて行ったからでした。ようやく、ジャヤに辿り着いた訳ですが、あったはずの黄金郷はありませんでした。島は半分を残して無くなっており、そこにいた住民もいませんでした。王は激怒し、ノーランドの今までの功績は、すべて嘘であるということにし、ノーランドを処刑してしまいました。しかし、黄金卿は実際に存在していたことをルフィが証明しました。

 こうした事実に反し、無実の罪をきせられ、公権力によって事実が捻じ曲げれ、罪なき者に罪を背負わされる、まさに冤罪であり、「狭山事件」とつなげて考えられるテーマです。

 他にも、神殺しや生け贄などの古き慣習の話も出てきます。相撲や宗教、神事や祭りのなかには、古き慣習が今も残っています。女人禁制は最たるものです。

部落史、部落差別、性差別、性の多様性=ワノ国

 ワノ国は新世界にある島で世界政府には加盟していない非加盟であり、「鎖国」をしている国として描かれています。海外に出ること自体が罪であり、禁じられており、開国することは、国に悪事を働く人や、悪き価値観を招き入れる悪行であるとされ、海外との情報のやり取りもない状況となっています。移民や難民を受け入れることに極めて消極的な今の日本と似ています。

 ワノ国各地には武器工場や採掘場などが建設され、川は汚染排水によって飲むことができないほど、汚染されています。安全な食料や水などは、カイドウとオロチが支配しており、市民からの反乱を起こさせないため、あらゆる武道を禁じています。「刀狩り」です。

 そして、ワノ国には厳格な身分制度があることが描かれており、士族は平民のことを「下人」と呼び、蔑んでいる様子が描かれています。相撲に関するシーンがある中、横綱である浦島は身分制度では位が上にあるなかで、平民の応援者を「下人」と呼ぶシーンがあります。そして、浦島との戦いで、お菊というキャラクターは「卑しきは下人という身分ではなく、浦島の心にある」といった台詞が出てきます。そして髷を切られ、逆上した浦島は「死にさらせ。身分卑しき下人の女が」という台詞とともに、お菊に張り手をくらわそうとしますが、ルフィに吹き飛ばされます。江戸時代の身分制度を描いたものであり、まさに「部落史」であり、「部落差別」です。また、「女に手をあげるとは」というように、好意的性差別に関する内容も描かれています。

性の多様性

 キャラクターのお菊やカイドウの息子とされるヤマトの描かれ方から、性の多様性についてアプローチができるのではないかと思います。

 戦闘シーンで、お菊は般若の面を装着していた中で、敵側から 「ワノ国一の美青年剣士と同じ面!?」 と驚かれています。 ルフィたちからは「男なのか?」との問いがあり、お菊は「心は女です」 と答えています。カイドウたちとの戦いが終わった後では、お菊は「女湯」に入っており、他の女性キャラも気にしている様子はありません。

 ヤマトはカイドウの息子と描かれており、自分と光月おでんと呼んでいます。身体的な特徴な、いわゆる女性として描かれていますが、戦闘後には、ルフィやゾロたちといっしょに入浴しているシーンもあります。ジェンダーレスやトランスジェンダーに関することや、そうした何かの枠組みにおさまらない多様な生き方などについて考えるアプローチができるのではないかと思います。

  問題だと思う場面や扱われ方もあります。「カマバッカ王国」という国は、名前通りの「オカマだらけの国」という設定で、「オカマ」という表現もいくつか出てきます。カマバッカ王国にある「ニューカマーランド」という表現や、そこで生まれた拳法を「ニューカマー拳法」「オカマ拳法」と名付けたりされています。あえて取り扱うようなことをするかどうか、子どもたちがどれだけ知っているか、どのように認識しているかから考えていくことがよいと思います。

 このような表現をはじめ、差別的な用語のことや性的マイノリティの描かれ方の問題点や課題点について考えること、性の多様性について、この社会には多様な性があり異性愛やシスジェンダーも一つの性のあり方であること、男らしさや女らしさなどについて考えることなどができると思います。

ルッキズム・見た目差別、いじめ=カタクリ、プリン、チョッパー

 ストーリーの中で、外見を理由にいじめられたり傷つけられたりしてきた過去を持つキャラクターが登場します。

カタクリ

 ビッグマム海賊団の幹部のなかで最強の人物です。懸賞金は10億5700万ベリーとホールケーキアイランド編では、懸賞金が最も高いです。

 ルフィは、このカタクリと戦います。その戦いの最中に、カタクリが秘密にしていた口が裂けているところを、カタクリの他の家族である「フランペ」と部下に見られてしまいます。フランペは、部下とともに、カタクリのことを「バケモノ」と蔑むような態度をとり、部下に写真を撮影させた上、島中にばらまくというひどい仕打ちをします。フランペからバカにされたことで、幼少期に「フクロウウナギ」とバカにされて育っていたことを思い出します。

 カタクリの冷静で冷酷で何一つ失敗せず、誰にも負けない完璧な兄・家族というキャラクターは、自分のためではなく家族のために、誰からもバカにされないために演じています。そのことを、きょうだいのブリュレは子どもの時から見抜いていました。

 幼少期のカタクリは、自分の口が裂けている見た目を気にすることはなく、きょうだいから「口を隠せば友だちができる」と言われますが、「いらねェ!これがおれだ。笑うやつはぶっとばす」と言ってドーナッツを食べます。いつものように「フクロウウナギ」とバカにされ、そう言った相手を懲らしめていましたが、ある日、ブリュレが顔に大けがを負います。カタクリをバカにし、返り討ちにあった相手が仕返しに来たのですが、仕返しの相手はカタクリではなく、ブリュレでした。自分のせいでブリュレにケガをさせてしまった自分を責めを責める、その出来事を契機に、自身の口を隠すことを決めた上、誰からも弱みや隙を与えない完璧なキャラクターを演じることを誓い、ブリュレに怪我を負わせた相手を返り討ちにしました。ルッキズムやいじめ問題を考える内容です。

プリン

 ビックマムの娘で、優しい性格と非常に冷酷な性格の二重人格があるように描かれ、外面と内面で考えていることが大きく違います。そのため、感情の起伏がとても激しいキャラクターとして描かれています。

 プリンは世界でも希少な「三つ目族」であり、幼少期から、その目のことで激しいいじめを経験しています。幼少期に「見ろ、こいつ三つ目なんだ」と髪の毛を掴まれ、激しく泣きながら「やめてよー」というシーンもあり、晒し者にされたりします。プリンは「タダで笑われてやるかよ」と、いじめをする相手にナイフで襲い掛かります。自分の素直な気持ちを伝えても、ぶつけても、激しいいじめを受けることは明らかだったため、本音を話すことをやめるようになります。やがて、自分にも嘘をつくようになり、本当の気持ちがどこにあるのか分からない状態になります。

 サンジとのやり取りの中で「それが本当の気持ち?」と訴えかけられた時、サンジは本当の気持ちを見破っていると感じ、サンジに心を惹かれるようになります。最初は、サンジとの政略結婚でサンジを殺そうとしましたが、これまでいじめを受け続けてきた「第三の目」を見たサンジは、素直にその綺麗な瞳を褒めました。プリンにとっては初めての出来事であり、動揺します。そこから政略ではなく、本気でサンジを好きになりますが、幼少期の経験から、自身の気持ちを上手く表現することができない場面が何度も登場します。見た目差別問題やいじめ問題、本音で語りつながる大切さなどを考えることができます。

チョッパー

 チョッパーは生まれつき、鼻が「青色」のトナカイでした。ただ、青色の鼻で生まれたということを理由に、常に群れの最後尾を離れて一人寂しく歩いていました。ある日、悪魔の実を食べてしまい、トナカイたちからバケモノ扱いを受けます。トナカイたちは、チョッパーを激しく追いやりました。完全に、よくいるトナカイではなくなったわけですが、それでも友だちや仲間が欲しかった。トナカイの群れから追い出されたチョッパーは人間の住む麓に下りてきましたが、チョッパーは完全な人間にはなることはできませんでした。その姿を人間たちは「雪男」と蔑み、銃で撃ち殺されそうになります。生まれてからずっとチョッパーは孤独でした。やがてヒルルクという医師免許を持たない医者と出会い、初めて人の温もりや優しさに触れます。しかし、そのヒルルクが死去するという別れがありました。

 外見が違う、本来ならその違いは尊重されるべき多様性であるはずなのに、「みんなと違う」ということで蔑まれ、排除され、孤独に追いやられます。クラスや学校、地域の中に、そんな人はいないのかを考え、違いを認め合う関係づくりを考えていくことができます。

公権力による抑圧や差別と闘う

 「公権力による差別や抑圧」に抗うストーリーがいくつも出てきます。権力に抗い、権力の抑圧と闘う姿は、民主主義を取り戻すための運動、権利を取り戻すための運動、水平社をはじめ、反差別運動そのものです。

天竜人に歯向かう

 種族の中で最も高い地位にあり、他の種族を見下し、奴隷として扱います。敬称として、男は「聖」、女は「宮」とつけられています。気に入らない者には理不尽に暴力をふるう姿、気に入った女性を無理矢理、妻にした上、飽きると捨てるといった横暴ぶりが描かれています。

 シャボンディ諸島でのオークションでは、ハチが天竜人によって撃たれてしまいます。ハチを撃ったのはチャルロス聖という天竜人でした。天竜人は誰かを殺害しても罪には問われません。チャルロス聖は、自分がハチを撃ったので、オークションすることなく魚人の奴隷が得られたと大喜びします。ハチはルフィに「結局、迷惑ばっかりかけて、ごめんな」と重傷を負いながら謝ります。チャルロス聖は「魚め、撃ったのにまだベラベラしゃべって。お前ムカつくえ」と言います。激怒したルフィは、チャルロス聖に近づくとこぶしを握り締め、チャルロス聖をぶっとばしました。暴力を容認しませんが、公権力の抑圧に対し抵抗する姿が描かれています。人権とは、公権力との闘いという争議性を伴うものです。権力に屈せず、どうありたいか、何を大切にすべきなのかなどを考えていくきっかけになります。

世界政府に喧嘩を売る(少し長いです)

 いわば世界における国連のような組織ですが、独自の軍事力を保有し、加盟国に対する権限も強いものとして描かれています。空島などの一部の地域を除いた広域に影響力を持っている国際組織であり、加盟国は170ヵ国以上にも及んでいます。

 ウォーターセブンでは、ロビンが世界にカギを握る人物として、世界政府の諜報機関サイファーポールの1つであるCP9の司令長官を務めている「スパンダム」は、政府の司法機関エニエス・ロビーのトップです。ロビンは、ルフィたちが旅を続けられるよう、あえて一味を離れ、スパンダムやCP9と行動をともにします。かつて、ふるさと「オハラ」が「バスターコール」というとてつもない砲撃によって破壊され、家族や友人などすべてを失い、存在しない場所となったことを経験しているからです。

 無事に航海を続けてほしいと「表面的に」願うロビンを無視し、エニエス・ロビーまでルフィたちは乗り込みました。ロビンは、自分がいると仲間たちが世界政府に狙われ、迷惑がかかると言います。ロビンは、バスターコールを受けた「オハラ」という場所の唯一の生き残りです。世界で古代の本文(ポーネグリフ)を読めるのはロビンだけです。そのことを知った人たちは、ロビンに近づき、ロビンにかけられた懸賞金を目当てにしたり、親しくなってもロビンが置かれた状況を知ると厄病紙扱いしたりするなど、さまざまな人たちに裏切られ、ロビン自身も裏切る20年間を送ってきました。そんな中、ルフィたちと出会い、本当に心を許せる仲間と出会いました。ロビンは、それでも、ルフィたちがいつか自分のことを裏切るのではと疑っていました。理由は、ロビンの敵は世界政府だからです。170もの国が加盟する世界そのものです。
 ロビンの力は「世界を破滅することができる」「悪魔の子」と罵られ、生きる価値がないとも言われ続けてました。ロビンは、

 「私があなた達と一緒にいたいと望めば望む程、私の運命があなた達に牙をむく!私には海をどこまで進んでも、振り払えない巨大な敵がいる!私の敵は「世界」とその「闇」だから!青キジの時も今回も、もう二度もあなた達を巻き込んだ。これが永遠に続けば、どんなに気のいいあなた達だって、いつか私を重荷に思う!いつか私を裏切って捨てるに決まってる!それが一番怖いの!だから助けに来て欲しくもなかった!いつか落とす命なら、私は今、ここで死にたい!」

と言います。

 自分の過去や置かれてきた状況を語るロビンの話を聞いていたスパンダムは大笑いし、司法の塔の屋上にはためく世界政府の旗を指さして、ルフィたちに、

 「ワハハハハ!そりゃそーだ!お前を抱えて邪魔だと思わんバカはいねーよ!あの象徴を見ろ、海賊共!あのマークは、4つの海と170か国以上の加盟国の”結束”を示すもの!これが世界だ!この女がどれほど巨大な組織に追われてきたかわかったか!」

と主張します。

 するとルフィは、「ロビンの敵はよくわかった」と言い、「そげキング、あの旗をうちぬけ」と指示します。そげキングは、ルフィの指示通り、本当に旗を狙撃しました。エニエス・ロビーにいたすべての人物が、その行動に驚愕。

スパンダムは、

 「海賊達が『世界政府』に宣戦布告しやがった!正気か貴様ら!『世界政府』を敵に回して、生きてられると思うなよォ」

と言いました。それに対し、ルフィは、

「望むところだー!」

と返しました。権力に抗い、権力の抑圧と闘う姿は、民主主義を取り戻すための運動、権利を取り戻すための運動、水平社をはじめ、反差別運動そのものです。

 他にも、キャラクターの生き方から見える反差別の意志がとても素敵です。

 サボというキャラクターは、ゴア王国に属する貴族として生まれます。ゴア王国には、ゴア王国から出たゴミが集まる「グレイターミナル」があり、貧困層の住民は、そのゴミの中から生活に必要なものを見つけて生活していました。ある日、サボはゴア王国が、このゴミ山を燃やすという計画を知ります。そして、ゴミ山を燃やすにあたり、グレイターミナルの住民に知らせることなく、燃やすということを知り、なんとか止めようとします。周りのおとなたちにかけ合いますが、「死んで当然」「燃やされて当たり前」といった反応しか返ってこず、サボは「俺は、貴族に生まれて恥ずかしい」と言います。

 このような経験の中から、サボの差別を許さない生き方が確立されてきたと考えられます。ドレスローザで、海軍大将の藤虎と戦った際、なかなか決着がつかない中で、藤虎は自分が視覚障害であるということを盾に同情をさそおうとしましたが、サボは「俺は差別しねえんだ」と明確に自分の意思表示をします。こうした「かっこよさ」と、しかし、登場人物と同じような属性や状態にある人たちが、この社会の中で何に困り、どのような不平等を強いられているのかなどを考えていくこともできると思います。

バックグラウンド(暮らしの事実)、仲間・集団づくり、ありのままの自分

 登場キャラクターには、さまざまなバックグラウンドがあることが描かれています。それぞれがストーリーのなかで最初は隠したりごまかしたりしていますが、そのバックグラウンドはそれぞれのキャラクターにとって重要で重大なものばかりです。同じ志をもつ海賊団ですが、ストーリーが進むにつれて、「本当は知ってほしかった、これまでの暮らし、苦悩」などが出てくるようになり、つながりがより豊かになっていく様が描かれています。反差別の仲間づくり、暮らしでつながる豊かな関係を築いていくために、よき教材になります。

ロビンの決められた運命

 エニエス・ロビーのところで紹介したように、ルフィがそげキングに指示し、世界政府の旗を打ち抜いた後、ルフィは、
「ロビン!!まだお前の口から聞いてねェ!!!『生きたい』と言えェ!!!!」

 ロビンはその言葉に、「生きる」という言葉に実感が持てないでいた。生きることを望んではいけないと思っていましたた。誰も生きることを許してはくれませんでした。世界のために死ね、存在そのものが悪で罪だと言われ続けて生きてきました。その時、ロビンの心に、オハラを逃げる時の母の声(生きて!)、友だちだったサウロの声(いつかお前を守ってくれる仲間が現れる!)という言葉が響きます。麦わらの一味のウソップが「ルフィを信じろ!」も思い出します。ロビンは「もし本当に、少しだけ、望みを言っていいのなら、私は、『生きたいっ!!!!』」と叫びます。

 ルフィは、世界政府ではなく、ロビンを選びました。その選択がどれほどのものであったか、ロビンに届いたということです。人を信じ、大切に思い、抑圧に屈せず、大切な人を守る、そんなつながりや集団をめざす営みとして考えていくことができそうです。

サンジの家族との確執

 サンジは「ジェルマ王国」の国王の子どもで、5人兄弟の4番目として産まれました。国王の意向により感情のない子どもに育て上げ、戦争に勝利できる兵士のような存在として子どもたちを育てます。サンジの母は夫の意向に反対し、劇薬を飲むことで感情のある子どもを育てようとしました。4人の子どもの感情に大幅な改造をすることに対し、母は「心を失ったら人間ではない」と猛反対し大喧嘩しました。父は手術を強行しましたが、母が強引に改造を止めようと劇薬を飲み、サンジだけが感情を持つことになります。しかし、父はそんなサンジを「出来損ない」として扱い、兄弟からも深刻ないじめを受け続けます。感情があること自体は幸いなことでしたが、サンジにとっては幸せだったとは言えない幼少期となります。サンジは、感情のない4人のうち3人から、冷酷な扱いを受け、父からサンジは存在しなかった子どもとして扱われます。

 父がサンジを自分で殺害するようなことはせず、直接、暴力をふるうようなこともしませんでしたが、妻の死後、サンジの感情のある表情を見ると、妻を思い出してしまう辛さなどから、サンジの顔を見ること自体を忌避し、最終的にサンジを軟禁します。 食事を与えたりサンジが料理の本を欲しがった時にそれを知っても黙認をしていましたが、サンジが王国から出るとなった時も、父は止めることもせず、「自分の知らないところで勝手に野垂れ死にしてくれるのなら、一向に構わない」と言い、最後には「ヴィンスモークの名を他に語らないこと」をサンジに頼みました。母を幼少で失い、実の父から存在しない子供として扱われ、兄弟からいじめを受けてきた壮絶な人生を送ったサンジのような暮らしの事実を、今を生きる子どもたちの暮らしと重ね、自分やクラスメイトにも多様なバックボーンがあるということを知ったり、意識していくことができます。

 サンジは、父が国のために四皇のビッグマムの子どもとの結婚をしなければならない状況になり、ルフィたちを巻き込ませないために一味を離れようとします。本当のことを言っていないサンジのことを見抜き、ルフィはぶつかりますがサンジは本音を言いませんでした。それでもルフィはサンジを信じ、サンジが去った後でも待ち続けました。

 そして、サンジは一度去りますが、ルフィが心配になり、家族らに内緒で戻ってきます。ルフィとのやりとりの中でようやく「本音」を語ります。自分を虐待し、いじめてきた父親やきょうだいに憎しみを抱きながらも、その家族が裏切りに遭い殺害されることを知ったサンジは家族を助けたいと言います。しかし、裏切り行為が始まれば自分の力では止められないと涙を流すサンジに、ルフィは必ず助けると言い切ります。本音を語り合える関係、助け合い支え合う関係というロールモデルです。

ボア・ハンコックの過去

 紹介してきたハンコックの体験が、国民らの前で女王として振る舞い、一切の弱さや弱みを見せない姿として描かれているのではと想像できます。隠しておかねばならない、知られたくない過去がある、知られれば馬鹿にされたり、変に思われるのではないかという「弱み」となるものがバックグラウンドにある。でも、本当は知ってほしいことなのかもしれない。そのことをも引き受けてくれる「安心」の場や人を探しているかもしれない、そんな自分と重ねて考えたり、クラスメイトの中に、「安心」を求めている友だちがいるかもしれないと想像し、みんながありたい自分でいられるようなクラスづくりを考えていくのもよいのではないでしょうか。

麦わら海賊団の加差別性

 主人公のルフィたちにも課題はあります。ドレスローザでの戦いで、ドン・キホーテ海賊団の最高幹部である「ピーカー」というキャラクターは、触れた石や岩と同化することができる能力をもっています。このキャラクターの特徴は大きな岩と同化することで、山のような体格になることができること、そして「声が高い」ことです。ピーカーは、地声にコンプレックスをもっていることが描かれています。

 戦いのなかで、ロロノア・ゾロはピーカーを「ソプラノ野郎」と挑発したり、ルフィは爆笑しながら「声、高けー」という描写があります。これは「差別」であり、あってはならないことです。子どもたちに、人が自ら選択できないことについて、嘲笑したり馬鹿にするような発言や見方をしていないかを考えさせていくこと、自分は何を言われるのが嫌なのかを知ってもらうことといった学びに使うことも大切だと思います。このシーンは、とても残念でした。

感染症差別

 フレバンスという国で、トラファルガー・ローは、医師の両親と妹のラミーと平和に暮らしていました。フレバンスは珀鉛が採掘される国で、フレバンスの経済は珀鉛を使った製品の売買で潤っていました。町全体がこの珀鉛によって真っ白だったことから白い町ともいわれていました。この世とは思えないほどの美しい国だと評判でした。

 しかし、ラミーが「珀鉛病」を発症したことで大きく運命が変わっていきます。珀鉛は毒ですが、人体にすぐに影響の出るレベルではなく、一人の若者に鉛が溜まり続けた場合、その人に子どもができた時、実は子どもの寿命が短くなっており、さらにその子どもがおとなになり子どもができた時、もっと寿命の短い子が生まれるという、代々時間をかけて人体を蝕む毒です。やがて、ローたちのように、おとなになる前に死ぬ世代が生まれます。世界がやっと珀鉛の有毒性に気づいた時にはもう手遅れでした。やがてローも発症します。

 ラミーと同じように肌や髪が白く変色、痛みに苦しむ人々が続出し、患者が病院に押し寄せてきます。薬も人手も足りず、医師であるローの父ですら、発症した妹のラミーを前に嘆き悲しむことしかできない状況でした。

 ローは自分よりも重症で寝込んでしまったラミの看病をしていましたが、その間に両親も殺されてしまいます。そんななか、ローたちを逃してくれるという兵士の言葉を信じ、ついていきましたが、子どもたちを集めていたシスターと、集まった子どもたちが全員惨殺されてしまいます。そして、ラミーがいる病院に戻ると、病院は全焼し、ラミーも亡くなってしまいました。

 亡くなったローの両親は優秀な医者でした。珀鉛病が伝染病ではなく中毒であることを発見し、伝染病ではないことを必死で訴えていました。しかし、世界政府は、今まで珀鉛の有毒性に気づいていながら、あえて珀鉛を採掘させていたという悪事をもみ消すために、意図的に伝染病であると報道し続けました。

 やがて珀鉛病を伝染病だと信じた周囲の国々は、フレバンスを八方から塞いで隔離してしまいます。

 フレバンスの隣接する国々は珀鉛病を伝染病と思い込んでいきました。フレバンスの王族たちは、政府の助けにより、早々に国を捨てて逃げ、国民は見捨てられました。他国での治療、移住を希望する「白い町」の人は モンスターのように恐れられ、射殺されていきました。こうした周辺国の対応に、フレバンスも黙ってはおらず、ついに戦争が勃発しました。

 「白い町」の出身者は忌み嫌われ、気持ちわるがられ、殺害までされるような被害を受けてきました。ハンセン病などの感染症をめぐる差別とその歴史を学んでいくことができます。

他にも、さまざまなテーマで考えることができる

 「少数民族の迫害」については、ドレスローザの「トンタッタ族」をめぐる問題が取り上げられており、現代的な問題とつなげることができたり、「先住民族の迫害」としては、ゾウの「ミンク族」をめぐる問題が取り上げられており、アイヌや琉球にまつわるテーマとつなげて考えることができます。海軍大将のイッショウは視覚障害であり、さまざまな場面が出てくるところから、障害者問題を考えることもできます。「戦争と平和」では、アラバスタ王国やエニエス・ロビー、オハラの「バスターコール」をもとに考えることができます。「児童虐待」については、パンクハザード編の子どもたちや、トラファルガー・ローのおいたちなどから考えることができます。

 「天竜人、世界政府、ワノ国」を初め、王族などの身分などが取り上げているストーリーやキャラクターなどの中から、人と人との平等性・公正性について考えることができます。クラスや学年の中に上下関係はないのかというアプローチや、マジョリティの特権について考えることができます。

 今度は、ジブリ映画や鬼滅の刃と呪術廻戦などについても触れてみようと思います。

 ご覧いただき、ありがとうございました。

返信を残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA