ヒューマンライツ情報ブログ「Mの部屋」38 スポーツから学ぶ・考える・取り組む人権

 オリンピックやパラリンピックは人権尊重を重要な柱に位置づけたスポーツの祭典であることは有名ですが、スポーツ界と人権問題も切り離すことができないものです。私は学生時代や社会人になりたての頃にサッカーをしていた関係上、ここではサッカーのことを中心に書いてあります。

サッカー界の差別問題

 2014年、スペインのサッカーリーグで、バルセロナとビジャレアルというチームとの試合が行われた中、当時、ブラジルの代表選手でもあった「ダニエル・アウベス」選手がコーナーキックを蹴りに行ったところ、スタジアムから一本のバナナが投げ入れられました。アウベス選手は、そのバナナを拾い、皮を剥いて食べ、コーナーキックを蹴りました。バナナを投げ入れる行為や猿の真似をするサポーターの行為は人種差別であるとされ、著しい侮辱行為でもあります。試合の後、バナナを投げ入れたサポーターは特定され、その後、スタジアムから永久追放を受けました。

 この後、世界的に有名な選手たちが、バナナを食べている様子をSNSに投稿し、アウベスを支え、差別に対して抗議する行動が巻き起こり、世界中に広がりました。

差別に対する国際社会の基本姿勢

 クロアチア代表のシムニッチ選手は、試合中に差別的なスローガンを唱えたとして、来年のワールドカップ以降の10試合への出場が停止されました。試合直後、シムニッチ選手は、マイクを使ってサポーターに「故郷のために」と叫び、サポーターが「備えよ」を意味するクロアチア語で答え、それが4回繰り返されました。

 このかけ声ややりとりをFIFAの規律委員会は「人種や宗教、出自を理由に一部の人々の尊厳を傷付ける差別的行為」と判断して処分を決めました。

 プレミアリーグ、クリスタル・パレスのFWウィルフリード・ザハ選手にSNSで人種差別的なメッセージを送った疑いで、12歳が逮捕されました。

 ユーロ2020の決勝戦でペナルティーキック(PK)を外したイングランド代表選手3人が、人種差別的な中傷を受けた問題で、イギリスの警察は5人を逮捕しました。

Jリーグでも差別が

 Jリーグでは、2014年に浦和レッズのファンがサポーター席側の入り口に「JAPANESE ONLY」と書かれた布をかけました。それを見ていたサポーターや警備員等は何もしなかった点で差別を容認しました。その後、Jリーグは浦和レッズの試合を無観客にしました。Jリーグが本格的に人権問題の解決に力を入れ始めたのは、この時期からです。

 その後も、海外にルーツのある選手に対してSNS上に人種差別の投稿が行われたり、選手間でも差別的は発言があるなど、課題は山積しています。

 ボクシング業界では、フィリピンの英雄と言われている「マニーパッキャオ」さんは、同性愛の人たちに対し「動物以下だ」とテレビに出演した際に発言しました。このことを受け、大手スポーツメーカーの「ナイキ」はパッキャオさんとの契約を打ち切りました。

 アメリカプロバスケットボール協会「NBA」は、ロサンゼルス・クリッパーズのオーナーだった「ドナルド・スターリング」さんが黒人に対し「彼ら(黒人)を試合会場に連れてくるな」と発言したことを受け、NBAからの永久追放と罰金250万ドル、日本円で2億6千円を貸しました。

 差別に対するこうした海外の対応が「標準」であり、日本がいかに差別を軽視しているかがよくわかります。

一方で、差別と闘うサッカー界

 海外のサッカーリーグでは、試合開始前に、「SAY NO TO RACISM」と書かれたブラッグを両チームのキャプテンが交換し合い、差別を許さない意思表示をしたり、サポーターも会場から同様のメッセージを発信しています。練習時には「NO TO RACISM」と書かれたシャツを着たりすることもあります。

 4年に一度開催されるワールドカップでは、トーナメントを勝ち上がったベスト8(準々決勝)から、試合開始前に両チームのキャプテンが反差別のメッセージを読み上げています。

 2011年のドイツワールドカップでは、日本の女性チームが優勝を果たしました。当時のキャプテンは澤穂希さんです。澤さんが読み上げた反差別の宣言はこのような内容でした。

 日本代表チームは、人種、性別、種族的出身、宗教、性的指向、もしくはその他のいかなる理由による差別も認めないことを宣言します。私たちはサッカーの力を使ってスポーツから、そして社会の他の人々から人種差別や女性への差別を撲滅することができます。この目標に向かって突き進むことを誓い、そしてみなさまも私たちとともに差別と闘ってくださるようお願いいたします。 

次の大会でも宮間キャプテンが反差別のメッセージを発信されていました。

イチロー選手や野球から

 私が知る限り、イチロー選手は日本国内でマジョリティ性の多い人です。非常に多くの「特権」を有する方でもあると思います。

 オリックスで活躍した後、メジャーリーグで野球をするためにアメリカに渡りました。輝かしい成績を残し、2019年に引退されました。その引退会見で、イチロー選手は野球人生で心に残ったことを3つ挙げました。その一つに、「アメリカに来て、外国人になったことで、人の心をおもんぱかったり、人の痛みを想像したり、今までなかった自分が現れた」「孤独を感じて苦しんだことは多々ありましたが、その体験は未来の自分にとって大きな支えになると、いまは思います」という言葉がありました。

 つまり、日本国内で差別とは180度遠いところにあるような立場であったイチロー選手も、アメリカに渡った瞬間から「日本人」というマジョリティ性は、アメリカの「外国人」というマイノリティに変わったということです。さらに、外国人になったことで、国籍を意識させられてきたこと、チーム内などで孤独感や孤立感をもったこと、差別的な扱いを受けたことなどがあったのだと想像されます。

 日本国内において、海外にルーツのある人たちが置かれている実態、心情をとてつもなく有名な選手が世界中の人たちが見ている引退会見で発信された意義は非常に大きいと思います。

部落問題にもつなげられる

 現役時代、道具を最も大切にしてきたことでもイチローさんは有名でした。道具への思いを語った内容のなかに「丹念にグラブを磨くことで一つひとつのプレーにこだわり、道具づくりにかかわった人たちへの感謝の念がわいた。」という言葉があります。グローブは皮革産業の一つであり、皮革産業はもともと被差別部落の産業でした。被差別の人たちの存在があってこそ、イチローさんの輝かしいプレーがあったということです。今では大谷選手をはじめ、野球自体が、被差別の文化に支えられ、今、たくさんの人に楽しまれているというように部落問題学習で取り上げることができます。

 このような本がありますので、紹介します。


 ご覧いただき、ありがとうございました。

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