ヒューマンライツ情報ブログ「Mの部屋」31 「何故、地方自治体は、部落問題の解消に取り組まなければならないのか」をおさらい

 まだ、一度も対面でお会いしたことはありませんが、SNSを通じてつながり、非常に厳しい状況に置かれながらも、部落差別の解消に向け、ご尽力されている方からのお話を受けて、改めて「何故、地方公共団体は、部落問題の解決に取り組まなければならないのか」のおさらいをしたいと思います。

 国際人権規約、人種差別撤廃条約は日本も批准・締結しており、国内法として六法全書に掲載されています。そして条約は、憲法の次に効力があり、国内法よりも上に位置します。条約を具現化するために、地方自治体は人権問題解消の責務を有しています。

 ところが、日本の悪き特徴ですが、差別や人権のこと、ジェンダーのことになると、この条約や法令に明文化されている「基準」が軽視され、思いやりや優しさ、心がけ、個人的な価値観や思いなどを優先する傾向が根強く残されています。労働者の権利は、労働関連法や就業規則をはじめとする各規則などで定められています。首長や教育長、社長や校長が「皆さんの権利を守るために、管理職や上司は社員や教員、職員に優しく思いやりを持って接するようにしましょう」という方針や訓示が出たとして、これで本当に権利は守られるでしょうか。答えは「何の意味もなさない」です。つまり、普段、働いている時には、労働関連法や就業規則といった「基準」に沿って業務にあたっているのに、何故か差別や人権になると「基準」が軽視されていることが少なくなりません。コロナ禍で感染者等への差別が発生した際、一定数の自治体が「思いやりや優しさを持って差別を無くしましょう」と啓発していたのには愕然としました。

 とりわけ、政府や行政、教職員などの公の職に就く人たちは、法令に沿って仕事をすることが原則であり、それは人権施策を展開する、人権教育や啓発を展開する上で「基準」に沿って取り組むことが基礎基本です。よって、法令に関する教育が必要になります。公務員が業務に関わって法令を知らないということはあり得ないこと、あってはならないということです。

人権教育及び啓発の推進に関する法律

 2000年に施行された「人権教育及び啓発の推進に関する法律」の第1条では、「目的」に、「この法律は、人権の尊重の緊要性に関する認識の高まり、社会的身分、門地、人種、信条又は性別による不当な差別の発生等の人権侵害の現状その他人権の擁護に関する内外の情勢にかんがみ、人権教育及び人権啓発に関する施策の推進について、国、地方公共団体及び国民の責務を明らかにするとともに、必要な措置を定め、もって人権の擁護に資することを目的とする。」とされています。「社会的身分、門地」は部落差別問題のことを指します。

 また、第5条で、「地方公共団体の責務」として「地方公共団体は、基本理念にのっとり、国との連携を図りつつ、その地域の実情を踏まえ、人権教育及び人権啓発に関する施策を策定し、及び実施する責務を有する。」と明記されており、差別の解消、人権問題の解決に取り組まなければならないとされています。

部落差別の解消の推進に関する法律

 「部落差別の解消の推進に関する法律」の第2条では、「基本理念」として、「部落差別の解消に関する施策は、全ての国民が等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものであるとの理念にのっとり、部落差別を解消する必要性に対する国民一人一人の理解を深めるよう努めることにより、部落差別のない社会を実現することを旨として、行われなければならない。」とされています。

 そして、第3条の2項では、「地方公共団体の責務」として、「地方公共団体は、前条の基本理念にのっとり、部落差別の解消に関し、国との適切な役割分担を踏まえて、国及び他の地方公共団体との連携を図りつつ、その地域の実情に応じた施策を講ずるよう努めるものとする。」とされており、地域の実情に応じ、部落差別をなくすための施策を講ずる努力が求められています。

 このように条約や法律で地方公共団体は部落差別をなくすための責務を有していますので、「何もしない」ことは明らかな条約や法律に「違反する」ことになります。行政としてはあり得ないことです。憲法や国際人権規約、法律、条例などに基づき仕事をするのが自治体職員です。

差別に対して「何もしない」ことがもたらす差別への加担

 差別という問題は、制度や慣習、構造の問題です。差別問題に中立という立場はないことを書きました。その内容はこちらですが、改めて述べると、差別は「する側」と「される側」の問題ではなく、「なくす側」と「のこす側」の問題です。圧倒的な権力を有するマジョリティと、権力を持てない・持ちにくい、奪われがちなマイノリティの「中立」は、一体どこにあるのでしょうか。行政の中立性を取り組まない盾にするような職員さんがたまーにおられますが、ほぼ間違いなくマジョリティの側に立ちます。自治体職員の圧倒的多数がマジョリティなので、「行政の中立性」というものは、とても慎重で丁寧に、人権の視点で本質を見抜く力が求められます。

 人権問題は、構造の問題であり、社会問題であるため、部落差別に対して「何もしない」ということは、

「流水プールの流れに便乗する状態」

になりますので、完全に差別に加担する、差別を容認することになります。自治体として職員として、あってはならない行為です。

 もう少し言うと、「何かをしている」としても、差別や人権問題の解決に効果的で有効な取り組みを講じなければ、同じことです。ぜひ、こちらも参考にしてください。

 自治体は差別をなくす責務を有しています。部落差別をなくすために何に取り組まなければならないのかを、被差別の立場の人に聞くことを当然とする態度は、非常に加害性があります。先進的に取り組んでいる自治体の取り組みを調査・研究することができるのに、それを放棄し、「あんたらは何をして欲しいのか」とマイノリティを見下げるような態度になっているわけです。差別を作り、支え、マイノリティに被害をもたらしてきた責任はマジョリティにあります。

 ぜひ、この本をお読みください。


 ご覧いただき、ありがとうございました。

1件のコメント

  1. ブログ「Mの部屋」、本当に素晴らしいです。読みやすくて、とても触発されるし、採り上げられている記事も新鮮ですし、学びも深くなります。連れ合いもこのブログの大ファンです。これからも楽しみにしています。奈良のおじさんより。

返信を残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA