ヒューマンライツ情報ブログ「Mの部屋」33 都道府県初の包括的差別禁止条例が制定されたので紹介・解説します(前編)

 2022年5月19日、三重県議会において「差別を解消し、人権が尊重される三重をつくる条例」が全会一致で成立しました。「差別解消条例検討調査特別委員会」が各会派すべてが参画のもと設置され、県政史上、最も多い参考人招致が行われ、2年で39回もの議論・検討が重ねられてきました。議員の方々の非常のハイレベルなやり取りのすべては議会の動画に記録されています。ここには書けませんが、本当に紆余曲折がありました。議員の方々、アドバイスをいただいた方々、参考人をはじめとするマイノリティの方々のご尽力に深く敬意を表します。

 条例が施行することの意義はとてつもなく大きいわけですが、それだけで差別がなくなるわけではありません。条例を具現化するための差別の解消に有効な施策が講じられなければなりません。この点については、また別の機会に書きたいと思います。

 それでは、前編と後編に分けて紹介・解説していきたいと思います。

前文に制定に関わられた人たちの思いが集約されています

 前文の解説は、逐条解説そのままを紹介します。

 第1段落は、世界人権宣言、人権に関する諸条約、日本国憲法に掲げられている差別解消や人権尊重に関する理念について述べています。

 第2段落は、第1段落で述べた理念の下、人権が尊重される社会の実現に向けて世界的に不断の努力が続けられていること、そして、近年の我が国において、いわゆる人権三法など不当な差別の解消等を図るための人権尊重に関する法整備が進展している状況について述べています。

 第3段落は、三重県における不当な差別などの解消に向けて取り組んできた先人たちの努力と「人権県宣言」などの先駆的な取組について述べています。

 第4段落は、第1段落から第3段落までの状況にもかかわらず、現在もなお不当な差別などの人権問題が存在しているという本条例の立法事実となる状況について述べています。

 第5段落は、不当な差別などの人権問題の解消に向けての基本的な考え方について述べており、1)不当な差別などの解決に向けた責任はそれを行った者等が負わなければならないこと、2)不当な差別などの人権問題の多くは社会構造の中で生じており、社会として解決していくことが必要であることという認識を示した上で、私たち一人一人が当事者として、自他の人権を尊重し、不当な差別などの人権問題の解消に向けて取り組んでいかなければならないと表明しています。

 第6段落は、これまでの内容を踏まえ、あらゆる不当な差別をはじめとする人権侵害行為を許さないことを宣言した上で、条例制定に向けた決意を述べています。

第1条 この条例の目的はそのままご紹介

 この条例は、不当な差別その他の人権問題の解消をはじめとする人権尊重に関し、基本理念を定め、及び県の責務等を明らかにするとともに、その施策の基本となる事項を定めることにより、不当な差別その他の人権問題の解消を推進し、もって不当な差別その他の人権問題のない、人権が尊重される社会の実現を図ることを目的とする。

とされています。

第2条 差別と人権侵害は、このように「定義」します

 第2条では、差別や人権侵害などの「定義」が明記されています。

 1では、人種等の属性として、人種、皮膚の色、国籍、民族、言語、宗教、政治的意見その他の意見、年齢、性別、性的指向、性自認、障がい、感染症等の疾病、職業、社会的身分、被差別部落の出身であることその他の属性のことをさしています。

 2では、不当な差別として、マイノリティであることを理由として、不当に区別したり、排除したり、制限することだとしています。また、あらゆる分野において、権利利益を認識したり、享有したり、権利を行使することが邪魔されたり、権利を侵害することを目的としたり、侵害されるような効果をもたらすものだとしています。

 3では、人権侵害行為とは、不当な差別、いじめ、虐待、プライバシーの侵害、誹謗中傷その他の他人の権利利益を侵害する行為(インターネットを通じて行われるものを含 む。)をさすとしています。

 1の「被差別部落の出身であること」は逐条で解説しています。

「被差別部落の出身であること」「被差別部落の出身であること」は、裁判例や学説では「社会的身分」に含まれるとされていますが、部落差別の歴史的な深刻性や県民に対するわかりやすさを重視し、「社会的身分」とは別に「被差別部落の出身であること」を明示しています。なお、「被差別部落の出身であること」はあくまで例示であり、「被差別部落に在住していること」や「祖先が被差別部落出身であったこと」なども「人種 等の属性」に含まれます。

とされています。

第3条 差別等をなくすための取り組みや視点はこれです

 第3条では、差別や人権問題を解消するための取組や施策、県民や事業者等が行う人権尊重に関する活動の基本理念と取り組みについての内容が明記されています。

 1つめは、人権は、この社会のあらゆる場所や機会に存在するため尊重されることが明記されています。

 2つめは、差別などが生じた際は、先に強制的な手段を用いるのではなく、建設的な対話によって差別や人権侵害行為に及んだ側が理解・認識し、例えば、今後もその施設を利用しやすくなるような対応することを基本にしていこうと明記されています。

 3つめは、差別や人権問題とは、制度や慣行、観念等の構造の問題であるため、意識を変えるのではなく、その構造等を改善することが明記されています。

 4つめは、差別や人権侵害は、した側の意図は関係なく、特定の発言や行為によって、誰にどんな被害が生じたのかという結果の問題であると明記しています。

 その他にも大切なことが明記されています。

第4条 差別と人権侵害は禁止します

 第4条では、差別と人権侵害を「してはならない」と禁止しています。また、誰もが、共通の人種等の属性を有する不特定多数の人に、マイノリティであることを理由として人権侵害行為をすることを助長したり、誘発することを目的として、マイノリティ性を有することを簡単に識別することが可能な情報を公開するような適示する行為はしてはならないとされています。

 摘示行為の手段としては、文書をまいたり、掲示したり、インターネットに投稿したりするなどが想定されています。被差別部落に関する識別情報の摘示行為については、法務省の「インターネット上の同和地区に関する識別情報の摘示事案の立件及び処理について(依 命通知)」等に鑑みると、どのような目的をうたっているかにかかわらず、人権侵害行為の助長・誘発目的が強く推認されるものであると考えられると逐条で解説しています。

第5条から第9条 みんなになくす責任があるので、みんなでなくていきましょう

 三重県、県民、事業者、プロバイダ等には、この条例の基本的な理念にもとづき、目的を達するために、人権施策に取り組むこと責務があるとしています。また、知事や議員などにおいても、基本理念にのっとり、高い人権意識を持って、この条例の目的を達成するため、率先して積極的な役割を果たすことが明記されています。

 ぜひ、この本も参考にしてください。


 前編はここまでです。ご覧いただき、ありがとうございました。

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