ヒューマンライツ情報ブログ「Mの部屋」64 「講演先あるある?」② 依頼先の悪意なきあれこれ。

 講演先では、まだまだネタになる経験をしてきています。今となっては「すべらない話」を紹介していきたいと思います。ちなみに、前回の内容はこちらです。

 息抜きにどうぞ。

「立派なのし袋」に隠された秘密

 今から15年ほど前の、講師料を個人受領できていた時代の、お金をめぐる「とてもやらしい」話ですので、ご了承ください。(今から10年以上前より、講師料の内規を設け、法人の講師派遣事業として休日や時間外もすべて職場が受領するかたちとなっています。モチベーションが上がりにくい時がたまにあります笑)

 15年ほど前の当時は、法人として講師料の規定もなく、依頼先と受けて側の職員が決める方式でした。講師である私から「いくらです」とは言えないので、依頼先の言い値で講師をしていた時代がありました。基本、交通費で損をしなければ啓発は重要なので断ることはほとんどなく、講演に出向いていました。

 ある学校の保護者研修に招かれ、片道120キロメートル以上、高速代は片道2000円近くかかるところに向かいました。講演を90分行い、講演後は校長室で休憩させていただきました。教頭先生が「立派なおぼん」に「立派なのし袋」を乗せて、校長室に入ってくるのが見えました。こういう時、できるだけ、のし袋を直視しないように、見たこと、見ていることを悟られないような行動を意識している講師は少なくないのではないでしょうか(笑)。凝視すると「この人はお金が好きな人なんだ」「お金目的で講演している人なのか」と思われるのではないか、それは嫌だから、的な。

 校長先生が「立派なのし袋」を持ち上げ、私に「今日の講師料になります。美味しいものでも食べて帰ってください」と言って渡していただきました。「ありがとうございます。頂戴します」と受け取り、領収書に記名・押印し、お礼を伝え、学校を出ました。のし袋はとても高級で、赤色と金色の帯が巻かれている、とても品の高いものでした。

 あまりにも立派なのし袋なので、「いくら入っているんだろうか」と気になって仕方なくなってきました。学校を出て2つ目の信号が赤色になった時、私の手はいつの間にか「赤と金色の帯」を外していました。袋を開けると、無地の真っ白な封筒が入っていました。「まだ見せないつもりか」と思っていると、信号が青になってしまい、封筒を開けられないまま走行することになりました。「早く赤信号で止まりたい」、そんな気持ちが初めて芽生えた瞬間でした。

 しかし、こういう時ほど、なかなか赤信号にならないもので、もうすぐ高速道路に入ってしまうという直前で信号が赤色になってくれました。助手席に置いていた無地の封筒を開ける時がやってきました。「こんなのし袋なんだから、それはもう」という期待と、「でも、なんかちょっと薄ない?新札だからやな」という不安が錯綜する中で、ついに開封します。

 そこにいたのは、夏目漱石2名。目のかゆみ以外で初めて目を擦ったし、怪我で指から血が出た時を除き、初めて指を舐めました。何度見ても、どれだけ触っても、どれだけ擦っても、夏目漱石は増えないし、新渡戸稲造や福沢諭吉に代わることはありませんでした。

 振り返りましょう。自宅から会場まで片道120キロメートル以上なので往復は余裕で200キロメートルを超えています。高速代は往復で3920円です。こうした交通状況の中で講師料と旅費込みで「2000円」。講演後、学校長は確かに言いました。「これで美味しいものでも食べてください」。校長先生、無理です・・・。

 この時、結構マジに「この立派なのし袋、売ったらいくらになるかな」と考えたりしました。当時、「メルカリ」か「ヤフオク」があったら、「立派なのし袋」を出品したんじゃないかと思います。

こんな全部、間違う?

 仕事で講演をする機会をたくさんいただき、さまざまな場所でさまざまな方々に向けて、さまざまなテーマで講演をさせていただいております。講演時には、必ずと言っていいほど、講師の肩書きとプロフィールが紹介されます。私は所属と名前で十分だと思っていますが、主催者が行事の一つとしてこれまでやってきた慣習のようなものなので、紹介されない機会はほとんどありません。私は「先生」と紹介されるのがとても嫌なので、さんなどの敬称でお願いしています。

 数年前、某自治体から講演のご依頼をいただき、打ち合わせや資料を送ったり、準備物のお願いをして、当日にのぞみました。私の名前は「松村元樹」で、所属団体は「公益財団法人反差別・人権研究所みえ」、肩書きは「常務理事兼事務局長」です。これを覚えておいてください。

 講演会がスタートし、主催者のあいさつ、来賓のあいさつ、来賓の紹介、基調提案等があり、いよいよ記念講演。司会者の方が講師紹介の担当者にマイクを渡され、私の紹介が始まりました。

 「本日の講師は、「公益『社団』法人反差別・人権『教育』研究所みえの常『任』理事兼事務局長の『村松』元樹さんです」。

 舞台に置かれた演台の横の椅子に座って「それでは、よろしくお願いします」まで待機してほしいと言われたので大人しくしていましたが、さすがに大勢の人を前にしても「ブーっ」と吹き出してしまいました。会場はチラシや垂れ幕、資料の名前や所属、肩書きとの違いに、明らかに間違いだろうという感じで、やや「ざわざわ」し始めました。再び、マイクを握った司会者の方が「それでは松村さん、よろしくお願いいたします」と振られました。

 「さあ、これをどう調理しようか」と悩みながら立ち上がり、演台までのたった5歩で、講演はヘタですが、こういうのは割と得意で、「ねづっち」に負けないスピードで「整いました」。

 マイクを握り、「みなさん、こんにちは」の後、「ただいま、名前・所属・肩書きを、見事に全部、間違われたご紹介を受けました松村元樹です」というと、会場は、大爆笑に包まれました。大爆笑はとても気持ちよかったのですが、講演テーマや内容は深刻なものだけに、しばらくの間、とてもやりにくくなってしまう雰囲気をつくってしまったことを後悔しました。

 関係者の方々は、講演後、何度も謝罪されましたが、私は他者のミスで気分を害するタイプではないので「全く問題ありません」と笑顔で対応しました。

ガチの「お邪魔しますか?」

 以前、特に学校の生徒を対象に人権に関する講演をする際の「打ち合わせ」の大切さについて書きました。(こちらです。)どんな属性や生活背景を背負わされた生徒がいるか、自分の暮らしや悩み、困りごとに現在、どのような受け止め方や向き合い方をしているのかを丁寧に聞かせていただき、生徒やクラス、学年の現状に合わせて、ある部分を強調したり、ある部分は今回避けたりと、講師の側も生徒への配慮のようなことを丁寧にやる必要があると思っています。

 そのように私は認識しているのですが、たまに学校側から生徒向けのゲストティーチャーのご依頼をいただいた際、日時を決め、内容を決めた後、依頼先の学校側から、まさかの、

「打ち合わせは必要でしょうか?」

 学校としてこんなことを大事にしていて、こんな取り組みを計画していて、この間、こんな取り組みを講じてきていて、生徒がこんな反応を示していて、こんな考え方を持っていて、こんな姿を見せてくれていて、こんな生徒がいることを知ってほしい、全体にこんなことを感じさせたいし気付かせたい中で、とりわけ、このような課題を抱えたこの子にこんな話をしてほしい、学校側の狙いや前述したような配慮等をすべきことなどを、生徒と一面識もない私に知ってほしい、聞いてほしいと思わないようです。

 私は、この「何か打ち合わせは必要でしょうか」と講師にガチで聞いてくる学校や先生を「お邪魔しますか学校、お邪魔しますか先生」と呼んでいます。「お邪魔しますか?」は吉本新喜劇に出演している「安尾信乃介さん」の定番ギャグです。このギャグに対する吉本新喜劇でのツッコミは「(こっちに)聞いてどないすんねん」です。

 この連載はまだまだ続きます。ご覧いただき、ありがとうございました。

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