ヒューマンライツ情報ブログ「Mの部屋」66 マイノリティの体験から明らかになる部落差別の現実〜アンケートやヒアリングから〜②

 前回に引き続き、三重県伊賀市が実施したヒアリングから見えてきた部落差別の現実を紹介していきます。前回はマイクロアグレッションなどの被害を中心的に紹介しました。今回は、結婚差別や就職差別などの例の一部を紹介していきます。前回の内容はこちらです。

100年で何が変わった?現代の「部落差別」

 20歳中盤頃、付き合いしている人と結婚を考えた時に、相手の親に反対されて、結局結婚しなかった。やはり結婚の時は、部落出身であることをどう伝えるかというしんどさがあり、地区外の友達には話しても分かってもらえない。(30代)

 12~13年前、同じ【地区名】出身の同級生から、結婚差別を受けていると相談があった。同級生は、付き合っている人の親が部落出身の人との結婚をものすごく反対しており、同級生は、付き合っている人を励まし続けていた。結局、結婚は許してもらえたが、その条件として、【地区名】出身であることを絶対口外しないこと、苗字を変える事を約束させられた。今もそのことがひっかかって、うまくいっていない。(30代)

 5年ほど前、次男が高校の時、地区外の子と付き合っていた。その子には、次男から部落出身であることを伝えてあった。ある日その子を家まで私の車で送っていった時、相手の母から「もう付き合わんといてほしい」と言われた。「なんでですか」と聞いたら「住んでいる所が住んでいるところだから」と言われた。別の日、自分の実家に、相手の母から電話で「息子さんは良い子やねんけど、【地区名】は部落やから、別れてほしい。娘に別れるように言っても聞かないので、そっちから言ってほしい。」と言われた。(50代)

 30歳の頃、〇〇〇〇という会社に勤めようとしたとき、「部落出身の人は採りません」と言われた。ハローワークにこのことを相談に行くと、その会社は態度を一変し「採用します」となったが、就職差別を受けたので、結局行かなかった。(60代)

安易に「過去の差別」と言っていいのだろうか

 今回、紹介している被差別体験は、差別の発生時期が何年、何十年前のものです。発生した時期は「過去」です。でも、差別の被害というものまで、過去の問題と言っていいのだろうかと思っています。今回のヒアリングでは、「過去の被差別体験」が当事者のその後の人生にどのような影響を与えてきたのかは明らかになっていません。隣保館の職員さんたちは一生懸命、取り組んでいただきましたが、とはいえ調査のプロフェッショナルではありませんでしたので、深めたり、広げたりするノウハウを持たれていませんでした。

 例えば、今の時代、かつてのような「就職差別」は起きていないのかもしれません。起きていないに越したことはありませんが、ただし、前回と今回、ご紹介したように、被差別体験の事例の圧倒的多数は、法務局や市の人権相談、隣保館などにすら相談が上がっていない内容であること、調査やヒアリングの対象者は限定的だったため、広く調査をすれば、現在進行形で就職差別に遭っている人がいるかもしれません。よって、私は安易に「今は『就職差別』は起きていない」などと表現したり捉えたりしてはいけないのではないかと思っています。

 政府や自治体が「就職差別が二度と起きない」ような法整備をやってきたのか、事業所に対して差別が起きないような有効な施策を展開し、仕組みを作ってきたのかというと、十分ではないのが実態です。

 先ほど紹介した被差別体験の具体例をもう一度、読んでみてください。この方々は、過去の時期に起きた体験により「人生そのものに被害を受けている」ことがわかります。これを「ハンセン病家族訴訟」の際にも原告や関係者は「人生被害」と呼びました。今回のヒアリングの結果も「人生被害」です。結婚差別がなければ、就職差別さえなければ、このような人生、生き方、苦悩、葛藤等を持たされること、抱かされることはなかったはずです。そして、差別被害を受けた人たちは、侵害された権利を回復できない、未だ「救済」されていません。

「差別被害の把握、相談と救済」の原則

 2回にわたって紹介してきた差別被害の事例は、三重県伊賀市に限らないことは容易に想像できます。三重県伊賀市だけに起きている差別や人権侵害などがあろうはずもなく、新型コロナウイルス感染症に関する差別と同様に全国的な問題です。そして事例だけでなく、被害者が相談できず泣き寝入りとなってしまっている状態が何十年も続いており、未だ有効な相談体制の確立や救済策は講じられていないという課題についても、全国共通の課題です。しかし、法律でよく明記されているように「地域の実情」があるわけで、今回のような調査やヒアリングは、それぞれの都道府県や市区町村で実施されていかなければなりません。

 差別の被害を把握するためのマイノリティに向けて実施される調査は、現行の政府や自治体、教育等々の取り組みの効果測定にとても重要な意味を持ちます。相談や救済は現行のままでは不十分であるという立法事実、教育や啓発が現在のままでは不十分であると言う立法事実、新たな仕組みを導入に差別行為を禁止する法や条例整備が必要であるという立法事実が明らかになるということです。被害が明らかでありながら、マイノリティに向けた被害実態を把握する取り組みを講じないのは、とても「加害性」があると思っています。

 「相談」は待機するものではありません。積極的に困りごとや悩み事はないかを市民に、マイノリティに向けて把握しようとするアウトリーチも「相談」です。声を上げられないマイノリティがいます。上げられない声を拾い上げ、差別解消に有効な政策の展開へとつなげてください。

 差別解消のためのマジョリティの力添えを願っています。

 ご覧いただき、ありがとうございました。

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