ヒューマンライツ情報ブログ「Mの部屋」77 就学前から高校までの「人権教育カリキュラム」

 このブログの「16 部落差別をなくす営み、今のままでいいですか?(前編)〜部落問題を取り巻く環境は大きく変化しています〜」で取り上げたように、部落問題や人権問題を取り巻く環境は、大きく変化してきています。16の内容はこちらです。

 人権教育を受ける機会を奪われた・差別の解消に有効な実践に出会うことができなかった若い教職員や保育士、行政職員が増える中、その若い世代に逆差別論や自己責任論が広がっているという教職員意識調査の結果が出ています。こうした状況を打開するためにも、子どもたち、保護者、保育士や行政職員、教職員など、さまざまな主体を対象にした人権教育カリキュラムが求められると思っています。

「差別を解消し、人権が尊重される三重をつくる条例」の第19条は「人権教育及び人権啓発」で、

①県は、市町、関係機関等と連携し、学校教育等を通じて、誰もが等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものであることその他の人権尊重の理念を体得させ、不当な差別その他の人権問題の解消に向けて主体的に取り組むことができる実践力を育むため、必要な人権教育を積極的に行うものとする。

②県は、市町、関係機関等と連携し、誰もが等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものであることその他の人権尊重の理念に対する理解を深め、不当な差別その他の人権問題の発生を防止するため、必要な人権啓発を積極的に行うものとする。

③県は、市町、関係機関等と連携し、不当な差別その他の人権問題に係る当事者がその困難を克服することを支援するため、人権侵害行為による被害に係る支援に関する制度の周知その他の人権啓発を積極的に行うものとする。

④前3項の人権教育及び人権啓発は、学校、地域、家庭、職域その他の様々な場を通じて、県民が、その発達段階に応じ、当該人権教育及び人権啓発に係る内容に対する理解を深め、これを体得することができるよう、多様な機会の提供、効果的な手法の採用及び県民の自発性の涵養を旨として行われなければならない。

⑤県は、人権教育及び人権啓発を担う人材の育成及び確保を図るものとする。

とされています。これが三重県における人権教育や啓発の「基準」になります。

そして、第19条の逐条解説では「人権教育及び人権啓発」について、

①様々な不当な差別などの人権問題について理解を深め、それらを自分自身の課題として捉え、それらの解消に向けた具体的な行動につなげられるような教育・啓発

②なぜ不当な差別などの人権問題が発生するのかを考えることを促す教育・啓発

③世界人権宣言・人権に関する諸条約・本条例をはじめとする人権に関する法令や条例の認知度向上を図り、それらの内容理解を深める教育・啓発

④不当な差別などの人権問題の解消に当たって障壁となるような慣行や観念などを改善していくことの意識付けを図る教育・啓発

⑤自身が権利の主体であることの認識を促し、権利を行使するための制度等について理解を深めるとともに、他者の人権を尊重しようとする態度を育む教育・啓発

⑥人権侵害行為を被っている人をはじめ、全ての人が自分を価値ある存在であると認識し、誇りをもって自分らしく生きようとする意欲や態度を育む教育・啓発

などが想定されます、としており、これも具体的な教育内容という「基準」です。この基準に沿って学校教育や社会教育を展開していくことが責務です。

 これを具体化するためには、人権教育や啓発に関する方針や計画を見直し、差別等の解消に有効なものとなるよう改定することが求められます。また、単に個人それぞれが「理解やアップデート」をするだけで問題は解決しない、能動的に解決につながる行動や実践を求めています。この条例をはじめ、人権関係法令や国際諸条約に謳われている条文のそれぞれの「基準」に基づいた実践が求められます。

①就学前における人権保育

例えば、性の多様性を意識した保育内容

・ひなまつりや七夕などの行事を活かした保育(男と女、男と男、女と女などの組み合わせがあること等)

・性の多様性を取り上げた絵本の読み聞かせ(同性愛や十人十色、虹色に関する絵本)

・色やおもちゃ、服や持ち物から考える性の多様性(男の子用や女の子用とは?)

・お化粧やドレス、スカートは、いわゆる「女の子」だけのものではない

・インクルーシブ保育の実践(障害がある、海外にルーツがある、一人親であるなど、多様なバックグランドを持つ子どもたちが、一つの空間で多様な友だちとの生活、関わり、個性の共有、助け合いや支え合い等々)

②小学校での人権学習

・多様性に関する教育実践

・無意識の偏見、無意識の差別(日常的差別)(初級編)

・子どもの権利、主権者教育(初級編)

・個別人権課題の学習(初級編)

・何を学ばせたいのか、感じ取らせたいのか等を明らかにした上での、ゲストティーチャーとの出会い学習

・それぞれの「暮らし」でつながる豊かな集団づくり

・「反差別」の仲間づくり

・マイノリティが置かれている状態・状況と自身のマイノリティ性との関連性を見出す(家族やきょうだい、友人関係の中での悩み事や困り事、自身のコンプレックス等々)

・学びの中で気づいたこと・理解したこと・集団づくり等の実践を保護者や住民、下級生等にプレゼンや劇、通信やポスターなどでアウトプットする機会の創造

③中学校での人権学習

・マジョリティの特権(初級編)

・無意識の偏見、無意識の差別(日常的差別)(中級編)

・子どもの権利、主権者教育(中級編)

・差別問題に関するアイデンティティ教育(前編)

・個別人権課題の学習(中級編)

・何を学ばせたいのか、感じ取らせたいのか等を明らかにした上での、ゲストティーチャーとの出会い学習

・子どもの「暮らし」でつながる豊かな集団づくり

・制度・慣習・慣行・構造的差別の学習(初級編)

・児童生徒による能動的なアウトプット機会の創造

・能動性・積極性の育成と向上

④高等学校での人権学習

・マジョリティの特権(中級編〜上級編)

・無意識の偏見、無意識の差別(日常的差別)(上級編)

・アファーマティブアクション(積極的差別是正措置)

・主権者教育(上級編)

・差別問題や人権問題に関するアイデンティティティ教育(後編)

・人権関連条約や法令と権利に関する学習

・個別人権課題の学習(上級編)

・制度・慣習・慣行・構造的差別の学習(上級編)

・児童生徒による能動的なアウトプット機会の創造

・卒業後、能動的に学び続けようとする学習内容と態度形成

県立学校・教職員に求められる基礎基本

 県立学校もさまざまな課題を残しています。三重県では、もちろん年数をかけて変わってきたこともあるとは思いますが、20年間で何が変わったのか実感の持てない状況があちこちで見られます。打ち上げ花火のように、一発だけの人権講演会で、よくわからない「感想」なるものを書かせて終わりにする学校が少なくありません。生徒の現実から出発しているとは思えない、思いつきや流行りで選んだ人権課題の講演を依頼してくる学校もまだまだあります。人権講演会に限りませんが、生徒に対し、たまたま早く生まれただけの特権に無自覚な教師が、「お前ら、早よ並べ〜」「俺にこんなこと言わすな〜」と大音量で高圧的な態度で生徒に迫る姿、人権の話になると急に「真面目」な態度を見せる教師、軍隊を思わせる意味があるとは思えない強制的な「整列」等々。極めつけは、「校則」です。何十年に渡って特定の条件を有する生徒たちを差別し人権侵害に及んできました。しかし、それが今も維持されていることが報道されています。

 まずは基本的なことを挙げるとすると、

1)生徒や保護者の責任にしない「教師の一丁目一番地」という原則

2)学ぶことへの謙虚な姿勢と学び続けること、アップデートし続けるという原則

3)校種に関わらず、優れた実践から学ぼうとする意欲、自らの実践にいかす原則

4)年上や年下、教師と生徒という抑圧構造が働きやすい構造であることを常に意識し、平等で対等な関係を築かなければならない原則

5)生徒のバックボーンを知ろう・掴もうとする実践の展開

 このような内容が、着実に県立学校に定着するためのしくみをつくること、実践をつくることなどが求められます。従来の取り組みでは不十分であることが、今の現場で起きている課題が提起しています。

上記に対応できる教職員を、何をどのようにすれば育成につながるのでしょうか

1)差別の解消に有効な実践につながる研修等の実施

2)研修や懇談等への能動的な参加(特に若い教職員)

3)授業づくり、実践づくり(人権教育研究大会などに報告する「つもり」で)

4)外部人材の積極的な活用

5)人権教育カリキュラムの作成(マンパワーだけに限らない実践の継承と発展)

6)すべての教職員がワンパッケージの研修を受けることのできるしくみづくり

容易なことではありませんが、体系的な育成システムやカリキュラムが必要なのは言うまでもありません。

保護者対象の人権教育・啓発カリキュラム

 保護者を対象とした就学前からの人権教育カリキュラムがあると、体系的に学ぶことができ、今以上に差別解消に拍車をかける事ができるのではないかと思っています。例えば、

1)アンコンシャスを含むバイアスやマイクロアグレッションについての学びにより、自身が無意識に有する偏見や思い込み、差別への自覚や認識による課題意識の設定

2)差別が制度や慣習・慣行、観念、社会構造の問題であると認識し、差別に加担・容認していることへの自覚

3)多数派・少数派の構造と、そこから生じる差別を実感でき。アファーマティブアクションの必要性を理解できるような参加型の学習

4)参加型での人権諸条約や法令への学びによる「基準」の共有

こうしたものが就学前から高校までの間で、コンスタントに保護者も知識や理解を得る、差別意識や偏見を除去する、差別の解消に向けて何らかの行動にうつすための仕組みをつくる必要があると思います。

 ご覧いただき、ありがとうございました。

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