
子どもたちが将来、安定した生活を送ることができる生活が高確率で保障される「特権」には何があるだろうと考えています。
今回は、保育士さんたちが園児たちの未来を保障していくために必要な保育が展開されていくために、文化的・経済的な特権について、園児や保護者の中から、どのような課題を見出すことが必要か、あれやこれやと考えてみます。
「マジョリティの特権」の概念を学んだとして、では「園児や保護者に関して、どのような特権がありますか」とか「特権という優位な条件が偶然少ない園児や保護者さんは、どのような状況下にありますか」みたいなことについて、園児や保護者の実態を掴み取る中から、具体的に見出すこと・語ることができないと、単に保育士さんたちが「自分の特権に気づいた、特権を理解できた」という気づきやインプットだけで終わってしまいます。これでは社会は変わりません。それぞれの立場や職種に応じて、「マジョリティの特権」に関する必要な政策を展開しなければ、マイノリティ性の多い人たちに及ぶ努力や実績とは無関係な不利や不平等は維持されてしまいます。
以下、保育のことを意識して、個人の努力や実績とは全く無関係に「まぐれ」で与えられる特権の例をあげてみました。この条件があてはまる数が多いほど、「まぐれ」でこれら条件のあてはまる項目が少ない環境・条件で生まれ育った人たちよりも、とてつもなく「優位」で「有利」な人生のスタート位置が用意されています。人は自分の身に不利なことが起きると「敏感」になりますが、優位な条件が与えられていることには「鈍感」であり、その優位な状態を手放す人は少ないです。小学校や中学校の徒競走で、ほんの少しでもスタートラインを踏んでいたり、前へ出ている子には、割と厳しく下がるように注意するのは、負けたくないという思いの強さと、相手が優位で自分が不利だと気づいたからです。
この、とてつもなく「有利」で「優位」な人生のスタート位置を用意されている人たちは、努力や実績とは無関係に、人生のスタート位置が決して優位ではない条件下で生まれ育った人に、堂々と恥ずかし気もなく、「自己責任論」を主張することについて、それがいかに誤りなのか、むしろ加害性を持つのかを自覚しなければならないと思っています。
また、スタート位置の不平等は、人生がスタートした後に、不利な条件を有する人たちに、さまざまな「壁」などの「障害物」が立ちはだかるのに対し、優位な条件を多々持つ人たちには、その「壁」や「障害物」のない人生を歩むことができ、何もしなければ不平等は加速します。これが今の日本の社会構造であり、それに自覚的・無自覚に便乗し続けているのが、マジョリティ性を多く有する人たちです。(ちなみに、マイノリティ性を有する人たちの中からも、特権に無自覚で、不利な条件にある人たちを責める・排除するといった言動に及ぶ人たちがいるので、マイノリティ性を有するからといって、特権を理解できているわけではない。)
よって、最初の砦となる就学前において、どのような保育が展開されていく必要があるのかについて、文化的特権の例を中心に具体例をあげて考えていきたいと思います。
経済的特権
1 経済力がある・経済面が安定している保護者のもとで育つ
1)食べ物に困ったことがない
2)ガスや水道、電気を止められたことがない
3)クリスマスや誕生日にはケーキやプレゼントをもらうことができる
4)動物園や水族館、アミューズメントパークに連れて行ってもらえる
5)将来的に、学費は保護者が全額負担してくれる
6)アルバイトをし、生活費に入れて家族を支えることをしなくてよい
7)上記以外にも、さまざまな生活経験が豊富な機会を与えられやすい 等
このような経済的分野の特権については、国の経済成長、賃金の上昇、公的扶助の充実などで対応する必要があり、保育現場で対応できるものではありません。

就学前を意識した文化的特権の一例
1 絵本の読み聞かせを受けることができた環境で育つ
2 家に新聞がある、社会事象などに関心がある保護者のもとで育つ
3 保護者が本を読んでいる環境で育つ
1〜3に関して、絵本の読み聞かせを受けることができなかった生い立ちの保護者さんがいます。活字文化が定着していない環境で保護者も育った、部落差別等を理由に非識字に追いやられた家族に育てられた保護者のもとで今の保護者が育ったなどです。非識字者がいる家には、新聞がなかったり、保護者が本が好きで日常的に読むといった活字の文化が容易には定着しません。
絵本の読み聞かせがいかに重要なのかという認識を持ってもらうこと、実際に例え5分でも毎日絵本の読み聞かせをするような習慣が家庭で根付くこと、園児が絵本を好きになるような保育内容を実践することが求められます。「絵本の読み聞かせをしてくださいね」と「言うだけ」では絶対に定着せず、絵本の読み聞かせをしない子育て文化が次の世代に継承され、基礎学力が低い傾向になる連鎖を招いてしまいます。伴奏型が基本であり、保護者が保育士に信頼を寄せ、保育士の言葉を聞き、子育てに生かすような状況をつくることが基礎基本です。
4 保護者の最終学歴が大学卒業以上、あるいは高学力の保護者のもとで育つ
5 保護者が大学進学を意識した環境で育つ
6 安定した生活につながる人生のロールモデルと出会う機会がある環境で育つ
7 勉強や宿題を教えてくれる家族がいるもとで育つ
4〜7に関して、大学を卒業している保護者さんは、その経験をもとに、子どもも大学に進学させようと意識して子育てをしていきます。一方、大学に行ったことのない人は、当然ながら大学とはどういった場所なのか等が経験がないが故に、人によっては、その必要性を説明できないような人たちもいますが、当然ながら、そうした人たちに何か責任があるわけではありません。ちなみに、大学に行けばよいとは思っていません。ただし、初任給の違いや就職できる幅などは、確実に違うのが今の社会です。大学に行くことでつながることができる人たちがいたり、学ぶことができることで、将来の幅が広がるといったことを「選択できる」状態になることが求められます。行こうと思えば、大学に行けたが、やりたいことが見つかったのであえて進学しなかったといったかたちです。そのためには、保護者向けの大学体験ツアーを企画したり、遠足や修学旅行、地域行事の中に大学体験を取り入れるといった取組が必要になります。
8 動物園や水族館、博物館などの文化施設に連れて行ってもらった
9 生活経験が豊富な保護者のもとで育つ
10 知的好奇心が育まれるような機会が豊富な環境で育つ
11 生活習慣が整っている環境で育つ
12 虐待を受けることのない環境で育つ
13 意欲が削がれるような言葉がけ、否定的な言葉がけがない・少ない保護者のもとで育つ
14 結果はもとより、努力や実績のプロセスを評価してくれる家族のもとで育つ
15 愛着が育まれる環境で育つ
16 自己肯定感・自己効力感・自己有用感が育まれる環境で育つ
17 さまざまな人と豊かなつながりのある保護者のもとで育つ
18 家族間の関係が良好な環境で育つ
19 保護者がすぐに答えを出さず、子どもが主体的に考えることができる環境で育つ
20 子どもがやりたいことを応援してくれる保護者のもとで育つ
キリが良いの20でやめましたが、文化的特権は、まだまだあげることができます。該当する数が多ければ多いほど、努力や実績とは無関係な優位な条件を多々持っているということです。社会構造の問題である以上、何も行動を起こさなければ、子どもが「どんな保護者のもとに生まれ育ったか、どのような家に生まれ育った」によって、人生が決まってしまうという、途轍もない不利や不平等が生み出される社会構造を結果として支えてしまう側に立つということです。
このような不利や不平等を解消するためには、絵本の読み聞かせをしていない・できない家庭が読み聞かせを実施するような取組を展開することが必要になります。保護者とのつながりがなければ、容易にできるものではありません。家庭に入り込まないと、改善することができません。どのように子どもに接するか、どんな時にどのように言葉がけをすればよいか、どのような体験を保育園で提供することができるか、何をどうすれば、この不平等が解消されるかなど、園として実施すべきことは山積しています。
保育園や幼稚園、こども園に入園してきた段階から、すでにさまざまな人生のスタート位置を用意された園児たちがいるということ、だから「画一的」な保育では、格差を広げることになるのは間違いないでしょう。
よって、家庭訪問や保護者の暮らし、おいたち、育児スタイル等の中から課題を見出し、園児や保護者にどのような力をつけていくかの目標設定と、それを具体化するための高度な保育が必要となります。
保育現場は疲弊している
今、保育現場は、疲弊しています。海外ならとっくにストライキが起きているような労働環境です。3歳の子ども20人を一人の保育士が担当することなど、あり得ない事態です。あるべき保育が実現されるために、厚生労働省をはじめ、都道府県や市区町村の首長が、保育の重要性を認識し、最低でも国際基準の保育士を確保する条件整備やシステムをつくらないと話になりません。これは差別問題の解消にも、間違いなく影響を与えると考えています。そのエビデンスとなる調査も将来的に実施したいです。
ご覧いただき、ありがとうございました。

三重県教育委員会が作った「みらいをひらく」の115ページ(教職員研修用;経済的困難が及ぼす影響)よりグンとわかりやすく20にまとめてくれた松村さん、いつもながらわかりやすいです!そうした背景を想像できない教員に向けてのものなのかどうかはわからないけれど。入学してきたものの衣食住に不安を持つ子たちが自分たちのすぐそばにいることを老若男女、生育歴を問わず職員はちゃんと認識していなくてはいけない。
具体的な事例を出していくとわかりやすいですね。僕自身が具体例を上げてもらった方がわかりやすいので。特に、丁寧な関わりや支援を必要とする子どもたちや保護者さんたちを掴みとり、必要な取組を講じてしていかないといけないですね。